日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌
Online ISSN : 2434-2254
Print ISSN : 1343-8441
総説
質的研究の基礎
鎌倉 矩子
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2003 年 7 巻 1 号 p. 12-18

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抄録

保健医療の分野でも古くから質的性格をもつ研究は行われていた.それらはたいてい人間行動に関心をもつ研究である.研究の発端となる疑問の形式として,仮説検証型疑問と絶対疑問型疑問があるとすると,前者は従来の数量的研究に結びつくが,後者は今日でいうところの質的研究の手法を用いることになる.保健医療職の関心が生物学的視点から行動学的視点へ拡大するにつれ,質的研究への関心は次第に高まった.人類学や社会学領域ですでに質的研究の発展があったことが,保健医療領域にも影響を与えた.これにより保健医療の関係者たちは,人間行動だけでなく,人々の語りをも研究対象とするようになった.

質的研究は,自然文脈の中で集めた記述データをあつかう解釈学的研究である。長所は,事象の深い理解や,予想を裏切る発見の可能性にあるが,短所は,文脈依存性,当該研究者の思考への依存性にある.質的研究と量的研究は相互補完的なものであるが,しかし質的研究者に対する量的研究者からの抵抗は大きい.このような状況の中で質的研究を行う者は,①方法主義に陥らないこと,②質的研究の長所を生かすこと,③短所への対応をよく考えておくこと,④分析と推論の過程を公表すること,⑤自分の研究を行うことの必然性をよく説明できるようにしておくこと,を心がけている必要がある.

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© 2003 一般社団法人日本摂食嚥下リハビリテーション学会
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