日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌
Online ISSN : 2434-2254
Print ISSN : 1343-8441
7 巻, 1 号
日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌
選択された号の論文の8件中1~8を表示しています
総説
  • Susan E.LANGMORE
    2003 年 7 巻 1 号 p. 3-11
    発行日: 2003/06/30
    公開日: 2020/08/21
    ジャーナル フリー
  • 鎌倉 矩子
    2003 年 7 巻 1 号 p. 12-18
    発行日: 2003/06/30
    公開日: 2020/08/21
    ジャーナル フリー

    保健医療の分野でも古くから質的性格をもつ研究は行われていた.それらはたいてい人間行動に関心をもつ研究である.研究の発端となる疑問の形式として,仮説検証型疑問と絶対疑問型疑問があるとすると,前者は従来の数量的研究に結びつくが,後者は今日でいうところの質的研究の手法を用いることになる.保健医療職の関心が生物学的視点から行動学的視点へ拡大するにつれ,質的研究への関心は次第に高まった.人類学や社会学領域ですでに質的研究の発展があったことが,保健医療領域にも影響を与えた.これにより保健医療の関係者たちは,人間行動だけでなく,人々の語りをも研究対象とするようになった.

    質的研究は,自然文脈の中で集めた記述データをあつかう解釈学的研究である。長所は,事象の深い理解や,予想を裏切る発見の可能性にあるが,短所は,文脈依存性,当該研究者の思考への依存性にある.質的研究と量的研究は相互補完的なものであるが,しかし質的研究者に対する量的研究者からの抵抗は大きい.このような状況の中で質的研究を行う者は,①方法主義に陥らないこと,②質的研究の長所を生かすこと,③短所への対応をよく考えておくこと,④分析と推論の過程を公表すること,⑤自分の研究を行うことの必然性をよく説明できるようにしておくこと,を心がけている必要がある.

原著
  • 松田 明子
    2003 年 7 巻 1 号 p. 19-27
    発行日: 2003/06/30
    公開日: 2020/08/21
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は,在宅の摂食・嚥下障害者の主介護者に摂食・嚥下リハビリテーションを目的とした教育を実施した結果,主介護者の摂食・嚥下に関する知識・技術が向上するかどうかとした.研究方法は,滋賀県内2訪問看護ステーションで介護度2以上の178名を対象に摂食・嚥下障害者を抽出し,インフォームドコンセントが得られた利用者の主介護者を無作為に割つけた(教育群14,対照群13).教育群に摂食・嚥下障害の介護方法を4ヶ月間教育した.対照群は観察のみとした.評価項目は摂食・嚥下障害者に摂食・嚥下機能症状,Barthel Index,SpO2とし,主介護者には摂食・嚥下障害に関する知識とした.その結果,教育前後の主介護者の知識14項目のうち11項目(「大きな声を出す」,「顔のマッサージをする」,「首を動かす」,「歯磨きをする」,「身体を動かす」,「嚥下機能の維持」,「肺炎予防」,「脱水」,「低栄養」,「肺炎」,「窒息」)が有意に増加した (P<0.005).このことから,在宅における摂食・嚥下障害者の介護者に対する知識の提供が有意義であることが判明した.そのため,在宅療養の早期に主介護者に対して摂食・嚥下機能に関する具体的な介護方法を教育していく必要があると考える.

臨床報告
  • 福永 真哉, 安部 博史, 伊藤 元信, 服部 文忠, 前山 忠嗣
    2003 年 7 巻 1 号 p. 28-33
    発行日: 2003/06/30
    公開日: 2020/08/21
    ジャーナル フリー

    本研究では,左半球の広範な脳梗塞によって嚥下失行が疑われた一症例の改善経過から,嚥下失行の概念の検討と左半球症状との関連について検討した.

    症例は72歳の右利き女性で,1998年3月3日に意識障害と右片麻痺にて発症し,脳梗塞と診断された.頭部MRIにて左中大脳動脈領域の広範な梗塞巣を認め,神経心理学的所見は,Broca失語,発語失行,口腔顔面失行,観念運動失行を認めた.嚥下機能所見は顕著な下顎,口唇,舌,咽頭の知覚障害および運動障害を認めず,非意図的な唾液嚥下が可能であったのにも関わらず,意図的な嚥下場面において嚥下躊躇による口腔から咽頭への送り込み障害を認めた.

    改善経過として,Broca失語と発語失行の改善は軽度に留まったが,観念運動失行,口腔顔面失行は著明に改善し,その改善に伴い嚥下障害は発症当初の経口での嚥下困難または不能な状態から,発症95日後には経口による介護食 (軟飯,軟菜) の三食全量自己摂取まで改善した.

    本症例は顕著な下顎,口唇,舌,咽頭の運動麻痺や知覚障害を認めず,口腔期の非意図的場面で唾液嚥下が可能であるものの,意図的な嚥下場面では躊躇し,舌の非協調運動に起因する送り込み障害を認めた.本症例の嚥下障害は,多彩な左半球症状を合併し,これらが同時期に改善したことから,左半球の広範な損傷に起因した嚥下失行であると考えられた.

  • 片桐 伯真, 藤島 一郎, 小島 千枝子, 柴本 勇, 松井 忍
    2003 年 7 巻 1 号 p. 34-40
    発行日: 2003/06/30
    公開日: 2020/08/21
    ジャーナル フリー

    軟口蓋挙上装置(以下PLP)は軟口蓋挙上困難に伴う鼻咽腔閉鎖機能不全により生じる構音障害の改善に有効とされている.しかし一般的に用いられるPLP(以下ハードPLP)は軟口蓋挙上位での固定性が強く,装着による違和感,唾液嚥下や摂食・嚥下時の困難さを認め,長時間の装着が困難な症例が多い.今回我々の施設では,軟口蓋挙上部に弾力のある可動性をもたせたモバイルPLP (Fujishima type) を考案試作した.これを装着し,構音障害の改善と同時に,摂食嚥下に対する問題点の軽減が得られた3症例を経験したので,紹介する.モバイルPLPは挙上部の支持素材を通常の金属ワイヤーから矯正用弾性ワイヤーに代え,挙上部が軟口蓋を微力で挙上しつつも,可動性が保てるように製作したものである.また粘膜面は十分な研磨とマニキュア塗布により接触面との抵抗を減らした.今回の適応は,ハードPLPにより構音障害の改善が期待された3症例に対して,構音改善と共に嚥下に悪影響を与えない目的で,モバイルPLPを製作した.またハード,モバイル,PLP無しでの会話明瞭度,Blowing時間,装着による食物摂食嚥下能力,日常生活での装着状況と機能予後を評価した.全例においてハードPLPと同等レベルの会話明瞭度の改善を認めると同時に未装着時と同等レベルの摂食嚥下能力が保たれた.また装着による違和感もハードPLPに比べ軽減し,摂食時も含め日中大部分の時間で装着が可能であった.また賦活効果については,長期フォローが可能であった2例において,経過中に機能改善が得られ,1年後にはPLP装着無しで会話明瞭度1となった.モバイルPLPは構音障害の改善が得られながらも,装着に伴う摂食・嚥下機能の低下は認めず,患者の機能面のみならず,QOL向上にも有効な装置と考えられた.

研究報告
  • ―咀嚼運動を模した舌変位時の方向と口蓋舌筋活動の関係―
    舘村 卓, 尾島 麻希, 野原 幹司, 和田 健
    2003 年 7 巻 1 号 p. 41-46
    発行日: 2003/06/30
    公開日: 2020/08/21
    ジャーナル フリー

    目的:口蓋舌筋は口蓋舌弓のなかに存在し,軟口蓋の口蓋腱膜と舌の側縁に付着することから,軟口蓋と舌の双方の運動に関係する筋群の1つであり,咀嚼と嚥下動作の両方に関与することが考えられる.しかしながら,口蓋舌筋活動の摂食・嚥下機能への関与については十分には明らかになっていない.摂食・嚥下機能への口蓋舌筋の役割の一端を明らかにするために,本研究では,咀嚼運動時の舌運動方向を模した運動を指示した際の口蓋舌筋活動を検討した.方法:4人の健常成人を被験対象とした.個々の被験者に,(1)舌尖で左口角を触れる動作,(2)舌尖で右口角を触れる動作,(3)舌を前方に突出する動作,(4)奥舌を挙上する動作,以上の4種の運動を指示した際の口蓋舌筋活動を採取した.筋活動は,経口腔的に刺入した有鈎針金電極を用いて双極誘導で導出記録した.筋活動の計測は,積分筋電図波形を対象とした.結果:すべての被験者において,舌尖で電極刺入側の口角を触れる動作と奥舌を挙上する動作で他の動作よりも大きい筋活動を示した.結論:口蓋舌筋は,咀嚼時に舌が食塊を臼歯部咬合面に載せる際の舌の側方運動に関与している可能性が示された.

  • ―物性と官能評価による検討―
    水上 美樹, 田村 文誉, 冨田 かをり, 原 明美, 大河内 昌子, 向井 美惠, 翠田 彩洋子
    2003 年 7 巻 1 号 p. 47-52
    発行日: 2003/06/30
    公開日: 2020/08/21
    ジャーナル フリー

    本研究は,嚥下困難者用ゼリーとして市販されている4種(水分補給,カルシウム補給,エネルギー補給,鉄分補給)の食品が,嚥下障害者にとって機能的,官能的に適当なものであるかを知ることを目的に検討を行った.機械的特性評価の試料には,今回検討する4種類のゼリーの他に,同様の目的で市販されているゼリー5品を用いて,かたさ応力,凝集性,付着性,破断応力を測定した.官能評価は,20代から50代の健康成人27名と65歳以上の高齢者37名を対象に行った.この他,高齢者に対しては,嚥下機能に対するスクリーニング,聞き取り調査,口腔内診査を行い嚥下障害の有無により,非嚥下障害高齢者群21名と嚥下障害高齢者群22名に分けた.4種類のゼリーは他の市販ゼリーに比較して破断応力以外の物性において,比較的温度による影響は受けにくく安定していた.官能評価の結果においては,機能面に関する回答は,正に傾いたものの,カルシウム補給については,「飽きやすい」,「あと味が悪い」傾向にあった.主成分分析においては,水分補給ゼリー,鉄補給ゼリー,エネルギー補給ゼリーは,咽頭通過の容易さや舌触りの良さなどテクスチャーに関する要素を満たしていた.また,カルシウム補給は,嚥下のしゃすさや残留感はあるものの,あと味の悪さと嚥下には時問を要する要素を持つものであった.これらの結果より,カルシウム補給ゼリーは,今後味の検討を行う必要性があるものの,今回の試料は,嚥下障害を有する高齢者に対しても比較的安全に口腔内の処理から嚥下に至るまでの過程を援助しうるものであることがうかがえた.

臨床ヒント
  • ―摂食・嚥下障害における口腔機能障害の評価―
    永長 周一郎, 藤谷 順子, 品川 隆, 植木 輝一
    2003 年 7 巻 1 号 p. 53-56
    発行日: 2003/06/30
    公開日: 2020/08/21
    ジャーナル フリー

    脳卒中片麻痺症状は口腔・顎顔面領域にも生じ摂食・嚥下障害を惹起するため,機能障害,能力低下の各レベルを的確に評価する必要がある.摂食・嚥下機能評価は嚥下造影検査,水のみテストのように能力障害の評価が多く,原因の一つである口腔機能障害の評価法は少ない.日常臨床で使用可能な評価法の開発を目的として簡易口腔・顎顔面機能評価法を考案し,その有用性を検討した.運動機能はデジタル画像で評価し,感覚機能は触覚で評価したアセスメントシートを作成した.評価項目は,脳卒中機能評価法 (SIAS) を参考にして3点あるいは5点満点で評価した.評価法を摂食・嚥下障害患者1名の口腔機能訓練に応用し有用性を検討した.舌運動,口唇運動ともデジタル画像により評価が容易で,機能評価により系統的に訓練を進めることが可能となった.今後は症例数を増やし,信頼性を検討するとともに評価項目の妥当性も検討していく必要がある.

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