本研究は,嚥下障害食導入が食道亜全摘術を受けた患者の栄養状態に及ぼす影響を明らかにするために,嚥下障害食導入前後の入院時と退院時における栄養状態の変化等を検討した.胸部食道癌で食道亜全摘術を受けた患者のうち,経口食事摂取が可能であった連続した30例を対象とした.嚥下障害食導入前に食道亜全摘術を受けた患者群15人を対照群,嚥下障害食導入後に食道亜全摘術を受けた患者群15人を嚥下障害食群として,身体状況,臨床検査,栄養素等摂取状況,術後合併症の発生について比較した.両群とも退院時の体重とBMIは入院時に比し有意に低下した (p<0.001).体重減少率は,両群間に有意差は認められなかったが,嚥下障害食群は対照群よりも低値であった.対照群は,退院時の血清アルブミン,ヘモグロビンは入院時に比し有意に低下した (p<0.001) が,嚥下障害食群では入院時と退院時の間に有意差を認めなかった.エネルギー充足率は,両群間に有意差は認められなかったが,嚥下障害食群は対照群よりも高値であった.嚥下障害食群の誤嚥性肺炎の発生率は,対照群に比し有意に低かった (p<0.05).以上の結果,嚥下障害食群の退院時の栄養状態は対照群より良好であったと考える.また,嚥下障害食導入によって誤嚥性肺炎の発生が減少することも確認された.嚥下障害食導入による誤嚥の減少が栄養状態を低下させる要因の発生を抑制したことが,退院時の栄養状態に影響したと考える.嚥下障害食導入は食道亜全摘術後の栄養状態の低下を抑制することが示唆された.