2005 年 9 巻 3 号 p. 255-264
【目的】食物の粘性が嚥下障害患者の嚥下動態に与える影響を,嚥下造影検査(以下VF)により考察することは重要である.飲食物の粘度により食塊の流れる速度を変えれば,誤嚥が抑制可能とされている.姿勢調節は,代償法の一つとして誤嚥防止および咽頭の状態改善のために用いられる.そこで,食塊の粘度と被検者頭部の前後方向への傾斜が,咽頭に流入する食塊の速度に与える影響をVF画像から検討することを目的とした.
【材料と方法】133症例のVF画像を検討し,食塊が口腔から零れて喉頭蓋に流入する所見が認められる症例を抽出した.対象となった21例は,脳性麻痺,脳卒中後,口腔腫瘍術後などである.VF画像より,食塊が舌背斜面(中咽頭前壁)を滑落する速度および舌背斜面の傾斜を調べた.VF検査に用いた試料の粘度は,C型回転粘度計により計測した.用いた試料は,造影剤,増粘剤を添加した造影剤,ペーストあるいはピューレ状の食品である.
【結果および考察】VF画像における液体試料(粘度1000mPa・s以下)の舌背斜面滑落速度は平均155±78㎜/sec,粘度の高い試料(粘度1000mPa・s以上)の速度は平均42±31㎜/sであった.粘度の高い試料では,舌背斜面の傾斜による滑落速度の変化を認めた.しかし,液状試料では,舌背斜面の傾斜を変化させることの滑落速度への影響は認められなかった.
これらの結果は,以前報告した模型によるシミュレーション実験と近似していた.シミュレーションシステム改良により,嚥下障害患者の咽頭における試料の速度を予見出来る可能性が示された.