日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌
Online ISSN : 2434-2254
Print ISSN : 1343-8441
原著
機能時垂直性口唇圧と年齢との関係
福井 智子菊谷 武田村 文誉稲葉 繁
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キーワード: 高齢者, 口唇圧, 身体能力
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2005 年 9 巻 3 号 p. 265-271

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抄録

身体機能の変化は年齢による影響を受けるものが多く,摂食・嚥下機能においても例外ではない.舌や咀嚼筋は加齢の影響を受け,その機能は低下するとされている.しかしながら,正常な摂食機能の獲得した口唇の力が,加齢とともにどのように変化するかについては未だ明らかにされておらず,これらを解明することは非常に意義あることと考えられる.そこで今回我々は,高齢者の機能時垂直性口唇圧と年齢の関係を明らかにすることを目的とし,本研究を行った.対象は60歳以上のボランティアとして参加した高齢者311名のうち,身体および口腔機能に影響を及ぼす要因がなく,天然歯による臼歯部の咬合が維持され,かつ前歯部に欠損のない137名とした.対象者は,60~83歳,平均年齢69.5±5.3歳,男性31名(平均年齢69.3±5.5歳),女性106名(平均年齢69.3±5.5歳)であった.口唇圧の測定は,圧力センサを埋め込んだアクリル平面板を使用し,捕食時口唇圧,最大口唇圧の測定を行った.また,舌による口蓋への最大押し付け圧を最大舌圧とし,測定を行った.さらに,身体能力の指標として握力,体格の指標として身長および体重を測定し,以下の結果を得た.捕食時口唇圧,最大口唇圧については年齢との相関は認めなかったが,最大舌圧および握力については,加齢とともに低下することが認められた (最大舌圧:r=-0.346,p<0.001,握力:r=-0.201,p<0.05).加齢に伴い舌圧が減退していくことを考えると,舌機能を代償するために,口唇の力が維持されていくことが考えられた.摂食において,捕食から嚥下するまで必要な動作である口唇閉鎖という一連の運動を長年にわたり繰り返し行ったことにより,口唇圧は高齢になっても高い値を維持していることが推測された.このことにより,口唇機能は年齢の影響を受けにくいことが示された.

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© 2005 一般社団法人日本摂食嚥下リハビリテーション学会
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