2010 年 43 巻 7 号 p. 595-600
症例は73歳,男性.1997年,慢性糸球体腎炎による慢性腎不全のため腹膜透析開始.2005年,血液透析に移行.2007年,被嚢性硬化性腹膜炎を発症し,パルス療法に引き続き維持ステロイド療法を行っていた.また心房細動,慢性心不全のため循環器内科医から継続加療を受けていた.2009年10月17日,上気道の違和感を自覚し18日になり発熱を認めたため,時間外外来受診した.簡易検査でインフルエンザA陽性であり,oseltamivir(タミフル®)と解熱剤の処方を受けたが,19日になっても発熱は改善せず,倦怠感と食欲不振が増強し,呼吸困難感も自覚するようになったため入院した.入院時体温は38.3℃で,室内気でSpO2 78%と著しい低酸素血症を認めた.胸部CTでは両側肺に非区域性にスリガラス状陰影が広がっており,両側に胸水も認めた.インフルエンザ感染による肺炎に加え,うっ血肺の要素があると診断し,zanamivir(リレンザ®)の吸入,ステロイド増量(メチルプレドニゾロン40 mg/日)透析による除水を行ったところ,2病日から自覚症状の改善がみられ,5病日にはX線所見も改善した.入院後行った痰のPCR検査にてパンデミック新型インフルエンザ(A/H1N1pdm)感染が確定した.透析患者が新型インフルエンザに感染し急速に肺炎・呼吸不全が進行した症例を経験した.背景にステロイド服用と心疾患の既往があったことから,このような症例では急速に肺炎・呼吸不全の進行がみられる危険性がある.