日本透析医学会雑誌
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原著
血液透析患者のNT-proBNP濃度測定の有用性
―心電図所見からの検討―
蔦谷 知佳子對馬 惠寺山 百合子山谷 金光齋藤 久夫舟生 富寿
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2010 年 43 巻 8 号 p. 633-640

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抄録

ヒト脳性ナトリウム利尿ペプチド前駆体N端フラグメント(NT-proBNP)は一般住民において心機能マーカーとして有用とされている.しかし,NT-proBNPは,主に腎臓で代謝されるため,血液透析(HD)患者では高値を示し,その基準値は必ずしも明らかでない.著者らはHD患者におけるNT-proBNP濃度の基準値を求め,心不全の予後予測因子としての有用性について検討した.対象はHD患者85例である.血清中のNT-proBNP濃度は電気化学発光法(エクルーシスproBNP,ロシュ・ダイアグノスティックス)で測定し,心電図からはV5のR波振幅+V1のS波振幅(RV5+SV1),RV5,QRS間隔,QTc間隔およびQRS軸を読んだ.HD患者のNT-proBNP濃度(676~127,172 pg/mL)は健常人(9~144 pg/mL)にくらべ有意に高値であった.NT-proBNPは心電図上の左室肥大診断に最もよく用いられるRV5+SV1とr=0.346(p=0.002)の正相関を示した.RV5+SV1≥3.8mVを左室肥大とし,診断特性(ROC)曲線から心機能異常を推定できうるNT-proBNPの基準値を約8,000 pg/mLとした.このNT-proBNP 8,000 pg/mLを基準にHD患者を2群に分け,採血後から1年間の心不全発生率を比較した.NT-proBNP≥8,000 pg/mL群(n=35)の心不全発生率は31.4%であり,NT-proBNP<8,000 pg/mL群(n=50)の心不全発生率0.0%にくらべて有意に高かった(p<0.0001).以上より,NT-proBNPはHD患者においても心不全の予後予測因子として有用であり,その基準値は8,000 pg/mLが適当と考えられた.

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© 2010 一般社団法人 日本透析医学会
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