抄録
正常人の9割以上に感染し無症候性に経過するBKウイルス(BKV)は腎移植後の免疫抑制療法下の5~20%の患者に再活性化をきたしBKV腎症(BKN)を起こす.その50~80%の症例で移植腎機能廃絶をきたすため注意を要する疾患である.今回,免疫抑制剤管理にて移植腎機能廃絶を回避したBKNの1例を経験したので報告する.症例はPCKによるCRFで血液透析歴10年の63歳,男性.妻をドナーとするABO適合右腸骨下生体腎移植施行.免疫抑制剤はタクロリムス(Tac),ミコフェノール酸モフェチル(MMF),メチルプレドニゾロン(MP),バシリキシマブ(Basi)の4剤併用通常プロトコールで導入した.術後経過は良好で術後14日目にsCr 0.98mg/dLで退院.Tac trough:7~10ng/mL,MMF 1,500mg/日,MP 4mg/日で維持し月に1回尿細胞診を施行していた.術後5か月目で倦怠感,尿量減少を自覚しエコーにて拡張期移植腎血流途絶,sCr 1.46mg/dLであり緊急入院となった.精査の結果ドナー特異抗体(DSA)陰性,CMV陰性,尿細胞診にてデコイ細胞検出,血中BKウイルスDNA陽性,移植腎生検にて急性拒絶,BKNとの診断であった.経済的な理由によりシドフォビル治療は行えず,病理結果を踏まえてMPパルス療法,グロブリン投与,投与の後にTac trough:3~5ng/mLに下げ,MMFを減量,ミゾリビン(MZ)に変更し最終的にはMZも中止した.グスペリムス塩酸塩(DSG)投与後sCrは一時6.2mg/dLまで上昇したがMZ中止後徐々に低下し,術後12か月目の現在,尿細胞診にてデコイ細胞は陰性化しsCr 1.7mg/dLで現在安定している.BKNに対する確立された治療法がないため,早期発見と早期免疫抑制剤の減量が基本といわれている.自験例のようにBKNによる高度腎機能障害を生じても免疫抑制剤管理で移植腎機能廃絶が回避できる症例があることが示唆された.また疾患特異性は低いものの,エコー所見はBKNの臨床経過とも相関があり疾患の状態把握に有用と思われた.