2020 年 53 巻 11 号 p. 573-578
症例は56歳, 男性. 糖尿病性腎症を原疾患とする末期腎不全で透析導入となった. 術前の心臓超音波検査で左室駆出率30%と低心機能であり上腕動脈表在化の方針としたが, 返血穿刺部として適切な表在静脈がないため動脈表在化に加え上腕動脈-尺側皮静脈内シャント (brachiobasilic arteriovenous fistula: BBAVF) 作製, 尺側皮静脈の表在化を一期的に行った. 心機能の悪化時にはシャント閉鎖を行う方針とした. 術後上腕動脈の血流量は1,288mL/分と適正流量の範囲内で心機能の悪化はなく, 発達した尺側皮静脈から穿刺可能となった. 心機能低下例において上腕動脈表在化は推奨されるバスキュラーアクセスであるが, 返血静脈がない場合も少なくない. 動脈表在化と同時にBBAVF作製と静脈表在化を行うことにより返血静脈が確保される本術式は1つの選択肢であると考えられたため文献的考察を加えて報告する.