抄録
Hemofiltration (HF) は限外濾過 (ultrafiltration) すなわちconvective mass transferにより, 血液中の溶質分離を行い血液を浄化する方法である。従来のHemodialysis (HD) は膜を介した溶質の濃度勾配をエネルギー源とした拡散diffusion mass transferにより血液を浄化する方法で, HFとは溶質の除去法が完全に異なる。すなわちHFは生体の腎糸球体機能に近く, HDに比しより生理的な人工腎であると言える。そのためHDでは見られない特徴がみられる。HFおよびHD施術中における小分子量物質の1つである尿素の生体内の動きを測定してみると, 総尿素除去量が両法で同じ場合には血中濃度の減少がHDに比し少ないにもかかわらず, 脳脊髄液濃度の減少はHDより大きい。これはHFでは尿素の細胞内・外間の移動がHDより, より円滑に速く行われていると考えることが出来, 一方HDでは細胞外液, 特に血液中からの溶質除去が主で, 細胞内から細胞外への移動が速やかでないことを意味している。そして, 先に述べた如く, 透析器からの尿素除去量は両法で同じであるから, その結果としてHF施術中はHDに比し血中浸透圧低下が少なく, 循環血液量の低下も少ない。そのため, 施行中の血圧低下が少ないと考えることが出来る。さらに脳脊髄液の分析によりHF前後のParadoxical Acidosisの程度および尿素の血液-脊髄液間濃度格差がHDに比し小さく, 不均衡症候群の原因と考えられている, 脳浮腫も起こり難い。事実HDと比較すると, HFでは不均衡症候群の発生頻度が有意に少ない。従ってHFは慢性腎不全患者にとり, より生理的で, より楽な療法であると言える。さらにHFはいわゆる中分子量物質の除去能に優れ, 慢性腎不全の種々の代謝障害の改善が期待される。