抄録
簡便な血漿calcium (Ca) 分画の測定法を考案し, 慢性透析患者において低Ca透析 (Ca 5mg/dl) と高Ca透析 (Ca 7mg/dl) 前後の各分画を測定し健常人と比較検討した.
1) 測定はTris bufferを用いpHを一定条件下で行う方法を採用し, Amicon centrifro CF-25膜による限外濾過操作と組み合せて行った.
本法では生体内における真の値は測定し得ないが, Ca分画に及ぼすpHの影響を除外でき, 測定法り簡易化にもつながる.
2) いづれの透析患者も透析前albumin, HCO3-, pHは健常人より有意に低く, 透析後HCO3-, は不変であったがalbumin, pHは有意に上昇した. リン酸やanion gapの透析前値は健常値より有意に高値で, 透析後有意に低下した.
3) 各透析前ionized Ca (I-Ca) は健常値と差がなかった. しかし透析前pHが健常人より有意に低いことを考え合せると, in vivoでのI-Caは多少高値である可能性がある. 低Ca透析後のI-Caは前値と差がなく, pH上昇を考慮すると多少低下していることも予想される. 一方高Ca透析後には有意に上昇し生理的範囲を越える例もあった. 文献的考察からも至適透析液Ca濃度は6-6.5mg/dlと考えられる.
4) 透析前のprotein bound Ca (PB-Ca), 及び主要Ca結合蛋白であるalbumin濃度で補正したPB-Ca/alb値はいつれも健常値より低値で, albuminのCa結合能の低下が示唆される. 一方透析後にはこの結合能の改善が認められ, いわゆるuremic toxinsの関与が推測される.
5) 透析前のcomplexed Ca (C-Ca) は健常値より有意に高値で, C-Caと平衡状態にあるI-Caが不変であれば透析後有意に低下する. これにはHCO3-濃度の変動以外に, リン酸や透析液中の酢酸などCa結合性dialysable anionを含むanion gapの変動が密接に関連している.
慢性透析患者に見られるこのようなCa分画の異常は, 直接あるいは間接にCa代謝異常に関与している可能性がある.