目的: 慢性透析患者において著明な低血圧症や透析中の血圧降下の為, 透析療法に苦慮する場合がある. このような透析困難症例に対し, 高Na透析, 重曹透析などの透析液組成を変更して, 無症候透析を試みた.
対象および方法: 対象は69歳女性で透析歴36か月, 原疾患は慢性糸球体腎炎である. 通常の透析方法では, 低血圧ショック等の頻発する透析困難な症例である. 透析方法は以下に述べる3種方法を行なった. 1) Na150-acetate透析; Na150mEq/
l, acetate37mEq/
lによる透析液を用いた. 2) Na150-bicarbonate併用透析; Na150mEq/
l, HCO
3-30mEq/
lによる透析液を用いた. この液中にはacetate8mEq/
lを含む. 3) Na160-bicarbonate併用透析; Na160mEq/
l, HCO
3-30mEq/
lによる透析液を用いた. この液中にはacetate7.5mEq/
lを含む. 1), 2), 3) の透析液によって, それぞれ4週間継続施行した. 高Naによる体重増加を防止する目的で, 透析終了1時間前にそれぞれの方法についてNa濃度を, 約130mEq/
lまで下降させた. 供給装置BN-11, 重曹液注入には, Bicarbonate Infuserを使用した. 検討項目として, 血圧, 補液頻度, 口渇, 体重増加量, 血液ガス, BUN, 血清浸透圧, 血清Na濃度の検討を行なった.
結果: 1), 2), 3) 方法において, 血圧下降頻度は, 83%, 41%, 25%, 補液注入頻度は, 66%, 25%, 16%と漸次減少し安定をみた. 口渇頻度は, 3) 法において83%と最も多く出現した. 体重増加量は, 3) 法に最も多く, 1) 法に比べ平均0.3kgの増加傾向にあった. 血液ガスについては, 2) 法および3) 法が, 1) 法に比べ有意な改善を示した.
考察および結論: 透析困難症例の1例に対し, 3) 法すなわち, 高Naと透析液bufferに重曹を使用した透析法は, 透析中の血圧下降, 不均衡症状などの出現が防止できた. これは高Na透析液と, 重曹透析液を併用することによって, それらの相乗効果が得られたと考えられる. しかし口渇, 体重増加は, 1), 2) 法に比べ3) 法に増加傾向がみられ検討を要すると思われる.
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