人工透析研究会会誌
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脳・神経系合併症とその対策
原 茂子葛原 敬八郎鈴木 好夫二瓶 宏三村 信英
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1982 年 15 巻 2 号 p. 207-218

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抄録
近年, 透析療法の進歩に伴い, 尿毒症症状の改善及び, 延命が可能となった反面, 透析療法に伴う種々の合併症が問題となっている.
著者等は, 腎不全及び透析療法に伴う脳・神経系合併症, 特に透析療法及び長期透析症例にみられる合併症の病態, 及び対策に関し当院の成績を中心に最近の知見を述べる.
uremic encephalopathy, neuropathyは, 従来のように, 典型的臨床症状を呈するものは少なくなっている. しかしながらsubclinicalなものは, 少なくない. 社会復帰例でも約50%にEEGではsubnormal-predementiaがみられるとの報告もある. 中枢神経系の病理組織学的検討では, 長期化に伴い, 脳萎縮, 小軟化巣, 出血巣, 脱髄, 変性は増加傾向を示している. metabolic factorのみならず, 高血圧, 低血圧等脳循環因子, trace elemests等多因子が関与している. 中枢神経系の機能をより生理的に維持することが必要である.
近年, 長期透析例での死因として脳血管障害の増加がみられ, 今後の大きな問題である. 適切な血圧管理による脳動脈硬化の予防, 脳循環不全の予防と対策を要する.
透析効率の高いダイアライザーの開発, 使用により, 不均衡症候群は増加傾向を示している. 対策として, hemofiltration法は, 効果的な1方法である.
硬膜下血腫例は, CT Scanの発達により早期に診断されうるようになっている. さらに適切な外科的治療により救命しうる.
透析液から血中に移行するtrace elementsの関与が問題となり, 特に, aluminiumは, dialysis encephalopathyに関与すると言われている. 血中高アルミニウムに対しては, 水処理の対策が必須である.
脳・神経系症状の出現に際しては, 薬物の関与もつねに考えるべきである. 長期透析化に伴い, 不安感等からの精神症状を示すものや, mult-infarction dementiaを呈するものもある. 筋症状には, disuse atrohyの関与も大きい. リハビリテーション療法を併用すべきである.
脳・神経症状は, slowly progressiveであることが多く, 時に見過ごされがちであるが臨床症状の十分な観察と, 神経学的検索が成因の解明をさらに治療へと導きうるであろう.
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© 社団法人 日本透析医学会
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