抄録
昭和41年1月から48年12月末日までに透析治療を開始した288名について検討した. 死亡例108名, 他施設への転医例64名であったため, 当院および関連施設での生存例は111名であった. 転医例を除いて計算した生存率は5年60.7%, 10年53.9%, 10年以上46.1%であった.
死因では心不全が25.0%で最も多く, 次いで脳血管損傷15.7%, 敗血症12.0%, 心外膜炎11.1%, 肝炎9.3%などが主要なものであった. 心外膜炎や敗血症による死亡例は, 5年および10年以降ではまったく発生していないが, 心不全, 脳血管損傷による死亡は10年以降ではむしろ相対的に増加している.
生存例の合併症の種類では, 心不全や肺うっ血は次第に減少し, 肝炎・肝障害, 心外膜炎の発生も同様であった. Blood access感染は少ずしも皆無にはならず, 重症呼吸器感染症も減少してはいない. ヘルペス感染症, 尿路結石症, 女性化乳房なども注目すべき合併症であった.
副甲状腺摘出例の19症例では, 透析歴8年2ヵ月-15年3ヵ月で平均10年10ヵ月であった. 我々の経験では10年以上の透析歴を有する例の12%が手術を受けたことになる.
手根管症候群は57名の当院での10年以上の生存例中で15名 (26.3%) に認められた. この比率は5年未満の95名中10名 (10.5%), 5年以上10年未満の64名中12名 (18.8%) から見て, 明らかに漸増傾向があった. 透析歴12年以上の8症例で手術を実施したところ, 病状は急速に改善した. 腱, 滑膜などの組織には全例で著しいアミロイド沈着を認めた. 同時に合併したバネ指の手術を受けた4例でも, アミロイド沈着が証明された.
10年以上の透析例では副甲状腺機能亢進症および手根管症候群の2つは, 特に注目すべき合併症と考えられる.