抄録
従来, 慢性血液透析患者では細胞性免疫能が低下しており, そのため, 種々の感染症に罹患する頻度が高いと言われている. したがって慢性腎不全患者の予後を改善するためには, その細胞性免疫能を正確に評価し, 細胞性免疫能の低下に関与する因子について検討することが重要である. そこで著者は, 基礎疾患が慢性糸球体腎炎である慢性血液透析患者79例を対象とし, 健常者20例を対照群として, その末梢血リンパ球の幼若化能の測定と末梢血りンパ球subsetの解析を行った. 非特異的T cell mitogenとしてはPHAおよびCon Aを使用した. 末梢血りンパ球subsetの解析については, fluoresceinを結合させたモノクローナル抗体を用いてリンパ球subsetを直接法にて染色し, 染色された細胞をflow cytometer (Ortho-Spectrum III) によって解析した. モノクローナル抗体としてはTcellに特異的なOKT-3, helper/inducer Tcellに特異的なOKT-4, suppressor/cytotoxic T cellに特異的なOKT-8, B cellに特異的なB-1を使用した.
mitogen刺激に対する反応からみると, Tリンパ球の活性は, 慢性血液透析患者では健常人に比し, 低下していた. 慢性血液透析患者では, 対照群に比し, OKT-3陽性率は高かったが末梢血リンパ球数は減少していた. OKT-4/OKT-8陽性細胞比は患者群では, 1.70±0.80, 健常群では1.70±0.70であり, 両群間に有意差は認められなかった.
慢性血液透析患者をOKT-4/OKT-8陽性細胞比の値によって3群に分けると, 末梢血リンパ球のPHA反応はOKT-4/OKT-8陽性細胞比が1.0-2.0の群ではQKT-4/QKT-8陽性細胞比が1.0未満および2.0以上の群に比して正常に近い傾向が認められた.
週18時間以上血液透析を受けている患者群と週15時間の患者群について免疫学的パラメーターを比較すると, リンパ球幼若化能は両群間で有意差が認められなかったが, OKT-4陽性細胞数は前者では後者に比し有意に高値を示した. さらに, OKT-3陽性細胞率は1週間の透析時間数の増加とともに高くなる傾向がみられた. これらの結果より, 慢性血液透析患者の細胞性免疫能は透析時間の延長によって改善される可能性が示唆された.