日本透析療法学会雑誌
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長期生存透析患者の臨床像とその妨げになる危険因子の検討
秋山 敬村上 健治村本 弘明宮崎 良一紺井 一郎森河 浄黒田 満彦
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1986 年 19 巻 9 号 p. 877-884

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抄録

慢性透析患者の長期生存に好ましい要因と, その妨げとなる要因を探るため, 長期生存例と死亡例とを対比・検討した. 当施設で10年以上血液透析を受け生存中の23例 (長期生存群) の透析期間は平均11年6ヵ月 (10年4ヵ月-14年1ヵ月) であった. これらの症例の11年目の時点における生存率は54.0%であり, 生存例の3/4は社会復帰可能な状態にあった. 導入時の平均年齢は33±10歳, 基礎疾患の約78%が糸球体腎炎であった. 経過中, 血圧・心胸比 (CTR) などは正常範囲内に維持される例が多く, またBUN, クレアチニン, Htなども適当な管理範囲内にあった. 一方, いわゆる安定透析期に入って死亡した27例の死因は, 心不全9例, 脳血管障害5例, 感染症4例, 高K血症3例, 悪性腫瘍2例などであった. 心不全と脳血管障害とを合わせると死因の過半数を占めたので, この両者を合わせて心・脳死群とし, 長期生存群との対比・検討を進めた. 心・脳死群 (n=14) の透析導入時の年齢は53±14歳と生存群に比べ約20歳高齢であった. 腎不全の基礎疾患は, 生存群の3/4以上が慢性糸球体腎炎であったのに対し, 心・脳死群では腎硬化症が約半数を占めていた. 透析導入1年後の時点においては, CTRを除き, 両群で有意な差はなかった, しかし, 死亡6ヵ月前の時点では, CRTの増大, 高血圧, 血清アルブミン (Alb), トランスフェリン (Tf) の有意な低下などが認められた. また有意ではないが, 総コレステロール (Chol) の低値傾向が認められたが, 中性脂肪, HDL-cholには有意差を認めなかった. 透析患者の長期生存を妨げる主要な死因は, 心不全, 脳血管障害であり, この際, 老齢, 腎不全の基礎疾患のほか, CTRの増大, 高血圧, 血清Alb・Tfの低下, などが密接に関連する結果が得られた. 長期生存には, 血圧の管理のほか, 栄養状態の改善についても留意する必要があると考えられた.

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