抄録
ヘパリンの副作用により血小板減少症を来すことがまれにあり, 血栓症やDICを起こすことが知られている. 我々は, 透析中に抗凝固薬として使用したヘパリンがヘパリン依存性の血小板減少症を来した症例を経験した.
症例は78歳の男性で呼吸困難を主訴とし来院. 慢性腎不全の診断で, 入院当日より血液透析を開始した. 抗凝固薬としてヘパリンを使用したが, 第19病日目より透析回路内に凝固が生じた. このため, ヘパリンの増量, チクロピジンの投与, ダイアライザーの変更等を行ったが効果は認められなかった. 検査所見上, 透析中の血小板数の経時的低下およびPF4とβ-TGの著明な上昇が認められた. そこで, チクロピジンと血小板凝集抑制の作用機序の異なるアスピリンを投与したところ, PF4とβ-TGの上昇および血小板数の低下は認められなくなり, 回路内の凝固も生じなくなった.
また正常者platelet rich plasmaと患者platelet poor plasmaの混合液にヘパリンを添加すると血小板凝集能の亢進が認められた. このことは本症例では抗凝固薬として使用したヘパリンが血小板凝集能の亢進を来し回路内に凝固が生じ, この過程に対してアスピリン投与が有効であったことを示している.