抄録
CAPDを施行中に急性腹膜炎を発症した男性5例, 女性2例の計7例にVCMの点滴静注または腹腔内注入を行い, その臨床的効果と安全性につき検討を行った.
点滴静注はVCM 30mg/kgを1回1時間で点滴静注し, 静注後の血中濃度, CAPD液濃度を経時的に測定した. その結果, 1回投与で7日間にわたって, 10μg/ml以上の十分な有効血中濃度が得られることが判明した. CAPDにおけるVCMの腹膜よりのクリアランスは平均1.26ml/minで, 腹膜炎の治癒と共にそのクリアランスは低下傾向を認めた. またVCMの腹腔内投与はバッグ内へ初回のみ200mg, 以後100mgを注入, バッグの交換回数は2日目まで1日6回交換, 3日目より1日4回交換とし, 投与は10日間行った. 経時的にVCMの血中濃度, CAPD液濃度を測定し, 体内への吸収量を計算した. その結果, 腹腔内投与量の約70%が吸収され, 投与後24時間以内に有効血中濃度となった. また, 全例投与開始3日以内に腹膜炎症状は改善し, 5日以内に, 透析液細胞数は100/mm3以内となった.
静脈内投与は5症例に7回施行したが, 副作用としては3症例の患者に軽度の筋肉痛・心悸亢進・掻痒感を認め投与中止した. 副作用の出現した3例の患者は腹腔内投与で治療を行った. 腹腔内投与例では明らかな副作用を認めなかった. 以上より, VCMの点滴静注および腹腔内投与はCAPDに併発するグラム陽性菌腹膜炎に対して有効かつ安全な療法であると思われた.