日本透析療法学会雑誌
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AIDS患者の血液透析とその対策
川元 幸子筒井 喜久恵千原 伊都子平井 トミ子牧野 泰子原田 せい子
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1989 年 22 巻 4 号 p. 411-416

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抄録
昭和62年7月より3か月間AIDS患者の血液透析を経験したが, わが国におけるAIDS患者の透析の第1例と思われるので, HIV抗体陽性者の透析に対する対策を報告する. 患者は46歳の主婦で, 昭和55年5月より血液透析を導入しており, 昭和60年に子宮癌で子宮全別術を受け, 貧血のため大量の輸血を受けた. 昭和62年3月偶然の機会にHIV抗原, 抗体が陽性であることが判明し, 輸血による感染として患者にも告知されていた.
AIDS患者の透析受入にあたり, AIDSに関する基礎的知識の習得, 具体的な透析の手順を検討した. 看護目標としては感染の予防, 患者の秘密保持, 適性透析の維持, 患者への精神的援助を上げた.
透析看護手順としては, 厚生省の「AIDS診療の手引き」に血液透析が観血的診療レベルIIIに分類されているところから, 透析室は専用部分を使用し, ガウンテクニックの下で透析し, 患者の血液, 体液で汚染した器材は高圧滅菌後に廃棄すること, 検体はその旨明示して検査室に提出することとした. 患者の血液で汚染した針によるスタッフの誤刺入をさけるため, 透析開始時の穿刺針の内針は注意深くポリ容器に廃棄し, それ以後の輸液, 採血等には金属針を用いないよう工夫した. 患者は3か月後髄膜炎症状を併発し死亡したが, この間透析は順調に行われ, スタッフの感染も防止することができた. 厳重な隔離透析により患者に疎外感はあったが, 次第に打ちとけ, 精神的援助も充分になしえたかと思われた. AIDSの透析についても, 恐怖心からいたずらに忌避するのではなく, 医療従事者の自覚に立って慎重に対処すれば, HIV抗体陽性者にも充分に医療の恩恵が与えられることがスタッフー同理解できた.
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© 社団法人 日本透析医学会
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