抄録
1980年以来, 当科において, 血液透析療法 (HD) を必要とした多発性骨髄腫 (MM) 症例を10例経験したが, このうち, 6例は1か月以内に, 2例は1年以内に死亡に至った. しかし, 残りの2例は5年, 6年以上の長期にわたり, 生存した. この長期生存の2症例を中心に, 他の8症例とその臨床像などを比較して検討した. HD導入後1か月以内の早期に死亡した6例をA群, 1年以内に死亡した2症例をB群, 長期生存の2症例をC群とした.
A群6症例は種々の合併症を併発したため, 早期に死亡した. 死因としては, DIC 1例, 感染症1例, 心不全2例, 不整脈1例, 脳血管障害1例であった. B群では1例がHD導入後, 安定したHDを続けていたが, 8か月に急性肝炎からの肝不全にて死亡, もう1例はHDを離脱しえたが, 11か月後に不整脈にて死亡した. C群のうち, 非分泌型の1例は腰椎腫瘍で発見され, 徐々に腎機能が低下し, HDに導入したが, 6年経過した現在も障害なく慢性透析を続けている. これは比較的早期にHDに導入したこと, 導入後も積極的な化学療法を施行したことが成功したと思われた. 他の1例は過粘度症候群にて急性腎不全をきたしたが, 血漿交換, HD, 化学療法にて急性期を管理し, HDを離脱することができ, 5年経過後肺炎にて死亡したが, 血清クレアチニン1.5mg/dlと腎機能は安定していた.
10例の比較では, 臨床像, 導入期の状態で3群間に大きな差は認めなかった. 導入期の段階で予後を推察することが困難であるので積極的に早期HD導入を行うとともに, 原疾患, 合併症の治療, 管理が必要と思われた. また, 稀といわれている非分泌型MM症例で腎不全を合併し, HD導入後, 6年にわたり, HDを続けえたのは貴重な経験と思われた.