抄録
血液透析導入後8年で低血圧, 四肢血行障害をきたし, 感染症にて死亡し, 原発性蓚酸症と考えられた症例を報告する.
症例は39歳の男性. 4歳で膀胱結石の既往あり. 31歳で維持透析開始. 34歳頃よりシャントトラブルを起こし, 徐々に四肢の腫脹, 疼痛が増強した, 平成2年5月シャント再建不能となり, CAPDに導入されたが, 腹膜炎を繰り返したため, 9月当院を紹介され転院した.
入院時, 低血圧 (62/40mmHg), 四肢の腫脹, 関節の可動制限, 疼痛, 下肢の潰瘍を認めた. X線にて両腎石灰化, 両側手指骨の骨膜下吸収像と末節骨の嚢胞状変化, 血管および軟部組織の石灰化がみられた. 腹水液培養にて真菌が検出されたためCAPDを中止し, 血液濾過法を行った. 低血圧に対してはミドドリンを, 下肢の潰瘍に対してはPGE1および抗凝固剤を投与するも改善傾向はみられず, 次第に循環不全は増悪していった. さらに感染症を併発し, 全身状態は悪化し, 死亡するに至った.
剖検にて, 腎, 心筋, 肺, 肝, 膵, 脾, 副腎, 甲状腺, 骨髄, 滑膜, 皮下組織などに蓚酸カルシウム結晶の著明な沈着が認められた. 幼児期の膀胱結石の手術既往があり, ビタミンC製剤の服用歴はないことから, 原発性蓚酸症と診断された. 動脈壁への沈着はあまりみられなかったが, 心筋には全体にわたり高度な沈着があり血圧低下の原因と考えられた.
本症は稀な疾患であり, 慢性腎不全にて無尿となった患者における診断は難しい. 腹部X線にて腎石灰化があり, 二次性副甲状腺機能亢進症と類似の骨X線所見を呈する透析患者では, 本症も考慮する必要があり, 骨生検, 骨髄生検を行うことにより診断がつく可能性があると考えられた.