抄録
今回, 維持透析患者に発症した虚血性大腸炎 (IC) および潰瘍性大腸炎 (UC) の症例を経験したので報告する. ICの例は既往に糖尿病, 高血圧症, 心不全, 慢性便秘症を有する28歳の女性. 透析中に下腹部痛, 下血をきたしたため入院. 注腸検査にて下行結腸に区域性の狭窄像, 内視鏡にて同部位の縦走潰瘍を認め, ICと診断した. 一般的にICは心疾患や動脈硬化症を基礎に有する高齢者に発症しやすく, 若年者に認められることは稀である. しかし, 透析患者は二次性副甲状腺機能亢進症による動脈硬化の促進, 尿毒症性自律神経障害による腸管運動の低下, 慢性便秘症からくる腸管内圧の上昇, 除水操作による血圧の変動などICの誘因となり得る要素を多く有している. 従ってICの基礎疾患を併発している透析患者では, 下血をきたした場合, 年齢にとらわれることなくICの発症を念頭におき, 精査する必要がある.
一方, UCの例は 32歳の男性で, 発熱, 腹痛, 粘血便が持続するため当科に入院. 注腸造影にて横行結腸中央部から下行結腸まで連続性に粗造な粘膜, spiculaの形成を, 内視鏡的に同部位の粘膜の浮腫, 発赤, 糜爛, 潰瘍を, 組織学的に炎症性細胞の浸潤およびcrypt abscessを認めたため活動期の左側型UCと診断した. 透析患者に発症したUCは, 検索し得た範囲では過去に2例の報告をみるのみである. 現在, 本疾患の病因は不明だが, Tリンパ系細胞の活性化が関係する免疫学的機序, 心理的要因の関与が提唱されている. 本例ではT細胞表面マーカーのCD4/CD8比は正常であり, また, 患者の仕事である学校事務の一番忙しい年度末に本症を発症していることより, 心理的要因の関与が示唆された. 透析患者に下血を認めた場合には, UCをも念頭において検査を進めていく必要がある.