抄録
低分子ヘパリン (LMH) は非分画ヘパリンから分離された製剤であるが, その歴史は浅く, まだ解明されなければならない問題点がいくつかある. 今後LMHが血液透析療法で広く応用されるにあたって, bed side monitor法の必要性, プロタミン中和法の確立, 製剤間の薬理的活性のばらつきなどの問題, さらに抗凝固作用以外の薬理作用の解明, 長期使用における安全性についての検討が必要と思われる. 今回我々は透析現場で汎用されている活性化凝固時間 (ヘモクロン法) を改良してLMH monitor法を開発し, この方法の有用性とLMH活性のプロタミンによる中和効率を検討した. 新たに開発したLMH monitor法は, 全血Xa活性化凝固時間測定法 (XaACT) で, in vitroおよび血液透析時in vivoでXaACTと抗Xa活性との間に良好な相関が得られた. また, 選択的にXa因子に作用するLMHでは, APTT, ACT (ヘモクロン法) などの血液凝固時間が十分に延長しないのに対して, XaACTではLMH活性を敏感に反映し, bed side monitor法として有用であると考えられた.
プロタミンは古くからヘパリン中和剤として臨床的に用いられてきたが, LMHの中和について血液透析における報告はない. プロタミンはLMH活性のうちAPTT, 抗IIa活性を完全に中和できるのに対し, 抗Xa活性およびXaACTの阻害は30-50%に留まった. 抗IIa活性と出血助長作用, 抗Xa作用と抗血栓作用の関係などまだ十分検討されてはいないが, プロタミンにより抗IIa活性は完全に中和され血液凝固時間は正常化するのでLMH使用後プロタミン中和を行えば臨床上出血の心配は少ないと考えられる.