抄録
血液透析症例の約24%に第2世代HCV抗体陽性症例が存在している現状が, 透析人生の予後の面からもその対策と治療の早期確立を迫っている. そこで, HCV抗体陽性透析症例の実態と感染経路, 診断, 治療, およびその治療を必要とする対象の選択, さらに抗体陽性症例への透析従事者の対応と汚染事故などの際の対策を検討した.
感染経路は輸血によるものが半数以上であったが, 輸血歴がないのに血液透析導入後に陽性化した症例が存在した. 透析施行による水平感染が示唆されたが, 真の感染経路は不明であった. また, 最近5年間では血液透析とCAPDの両透析法とも, HCV感染率は減少していた. 両療法の比較では輸血歴のない症例で血液透析の方が陽性率が高かった. HCV感染の診断は, 透析症例の血清GPT値が低値を示すことから, 18IU/l以下を基準値として, HCV-RNA量を測定する必要があると考えた. 肝組織病変の検討からはHCV感染の罹患歴と組織病変の程度が正相関を示し, 血清GPT値が基準値以下であっても進行した肝病変の認められる症例も少なからず存在することが明らかとなった. また, 腎移植後の免疫抑制剤使用でHCVの増殖がみられた. 従って, IFN療法の適応は, 腎移植の増加が期待される現状を考慮すると, 腎移植希望者を主として, HCV-RNA量が105Eq/ml以下のセロタイプII (ゲノタイプIII, IV) で, 肝組織病変がCAH2Aまでの症例を対象とすると治療効果が高いと考えられた. しかし, IFN療法は副作用が高頻度で出現するため, 透析症例に対する投与方法の確立が急がれる. 透析従事者は感染症例ごと, また操作ごとに使い捨て手袋の着用と感染対策を厳守すべきであるが, 隔離透析の必要はないと考えた. 一方, 汚染事故にはHCV感染の診断を確実に行い診断確定後にIFN療法を施行しても十分であると考えられた.