抄録
1日量4-8単位と少量のインスリンにてHbA1cが7-8%程度にコントロールされているが, 透析時に時々血糖が低くなる糖尿病性腎症由来の血液透析患者4名 (平均年齢56.5±2.1歳, 糖尿病推定罹病期間17.5±7.3年, 透析施行期間21.5±6.5か月, 切り替え前のインスリンの平均使用量6.5±1.9単位/日) におけるacarboseへの切り替えの可否について検討した. 各症例においてインスリン中止の翌日よりacarbose 150-300mg/日の投与を開始し, 変更前9か月と変更後12-15か月間のHbA1cとfructosamine (FRA) の推移ならびに副作用としての腹部症状の程度について比較検討した. 症例1は54歳女性. penfill 30R 1日6単位をacarbose 300mg/日に変更したところ, HbA1cとFRAは有意に低下し, 便通も一時改善を認めた. 症例2は59歳男性. monotard 1日8単位をacarbose 300mg/日に変更したところ食欲不振が生じ, 50日でインスリンに戻した. その後食欲は改善したが, HbA1cとFRAはともに悪化を認めたためインスリン量を漸増させて, 結局変更前より増加した (monotard 12単位/日). 症例3は57歳女性. penfill N 1日4単位をacarbose 150mg/日に変更したところ, HbA1cとFRAは変更前と同程度に保たれたが, 元々みられた交替性便通異常は悪化し, 5か月でvogliboseに切り替えた. しかし同剤においても下痢がひどく, 1か月で中止した. 症例4は56歳男性. monotard 1日8単位をacarbose 300mg/日に変更したところ, HbA1cとFRAは変更前と同程度に保たれたが, 一時タール便を認めacarboseの内服を2週間中断した. 再開後も放屁と便秘は持続した.
以上のことより, インスリンよりacarboseへの切り替え後もHbA1cとFRAは同程度かやや低下を示し, 血糖コントロール状態は比較的良好であるが, 腹部症状が強いため内服を中断ないし中止する症例も認められた.