抄録
日本では, 1999年末には透析患者が約20万人に達した. 男性透析患者は約11万人であり, このうち80%が50歳以上であり, 平均年齢59.9歳と男性透析患者は高齢化している. 透析患者の癌発生率は正常人に比し高いといわれ消化器系癌や尿路系癌の報告が多かった. 最近, 透析患者の前立腺癌症例の報告が散見される. そこで, 尿量が少なく排尿症状の訴えが少ない男性透析患者に対して, 前立腺癌の早期発見のために血清PSAスクリーニング検査を施行した.
男性透析患者66名を対象とした. 平均年齢60.1歳 (37-83歳) で, 平均透析期間は5.6年 (0.3-16.4年) であった. 血清PSA値は, Tosoh II PAキットを使用して測定した. 血清PSA値が4ng/ml以上の患者には, 直腸診や経直腸式前立腺超音波検査を施行し, 同意が得られれば経直腸式超音波ガイド下の前立腺6分割6箇所生検法を施行した.
全症例の血清PSA値は, 0.1-40.4ng/ml (平均1.9ng/ml) であった. 血清PSA値が4ng/ml以上の症例は3例であり, 全3症例に前立腺生検を施行した. その結果, 3例中2例に前立腺癌が発見されたが, 2例ともにリンパ節転移や遠隔転移を認めなかった. この2例は尿量がほとんどなく排尿に関する自覚症状がなかったので, 血清PSAスクリーニング検査は前立腺癌の早期発見に非常に有効であった. 今回の前立腺癌発見率は3% (2/66例) であり, 群馬県の前立腺検診の癌発見率1.8% (119/6744名) より高値であり, 男性透析患者に前立腺癌も発生しやすいことが示唆された. 症例数は少ないが, 前立腺癌症例を除いた64名の透析期間と血清PSA値, 年齢と血清PSA値には相関関係を認めなかったが, 男性透析患者の血清PSA値は透析療法に影響を受けず正常腎機能症例と同様に考えて良いことが示唆された.