日本透析医学会雑誌
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カテーテル感染によりMRSA化膿性脊椎炎を発症し, 原因不明の腹痛発作を繰り返した血液透析患者の1例
駒場 大峰井垣 直哉高嶋 基嗣後藤 俊介土居 久子門口 啓竹本 利行田中 真紀前田 賢吾来田 和久杉本 裕廣末 好昭玉田 文彦後藤 武男
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2005 年 38 巻 7 号 p. 1361-1366

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抄録

血液透析患者のカテーテル感染症は深刻な問題であり, 感染が重篤化しやすく, 死亡例も報告されている. 今回われわれは, 糖尿病性腎症による血液透析患者にMRSA (methicillin-resistant Staphylococcus aureus) 敗血症および化膿性脊椎炎を発症し, 2か月に及ぶ原因不明の腹痛発作を繰り返した-症例を経験した. 症例は72歳男性で, 肺水腫による呼吸困難を呈し来院した. 内シャントより血液透析を導入したが, 第14病日にシャント閉塞をきたしたため, ダブルルーメンカテーテルを留置し, 同部位から血液透析を継続した. 第35病日に悪寒, 発熱を認め, 血液培養よりMRSAを検出し, MRSAカテーテル感染症と診断した. カテーテルを抜去し, 塩酸バンコマイシンの全身投与を行ったが治療に難渋し, 約2か月に及ぶ激しい腹痛発作が出現した. MRIを含め各種画像検査を繰り返し行ったが原因不明であり, 第120病日頃より背部痛が出現した. 神経学的異常所見は認められなかったが, Gaシンチグラムでは腰椎に集積亢進を認め, MRIでは第12胸椎から第1腰椎にかけて骨破壊像を認め, 化膿性脊椎炎と診断した. 抗生剤の全身投与に加え, 局所ドレナージ, 洗浄を行い, 発熱, 腹痛発作は改善した. 本例はダブルルーメンカテーテル留置を契機にMRSA敗血症を発症し, 化膿性脊椎炎を併発したものと考えられた. 腹痛の原因は不明であったが, 糖代謝異常による微小循環障害, 黄色ブドウ球菌細胞表面蛋白によるサイトカインネットワークの活性化, 菌血症による微小血栓の関与が想定された. 黄色ブドウ球菌感染は骨破壊をきたし, 合併症として化膿性脊椎炎を惹き起こすことが知られている. 透析患者に黄色ブドウ球菌カテーテル感染症を発症した際は, 化膿性脊椎炎の合併も念頭に入れて, 診療にあたるべきである.

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