認知症治療研究会会誌
Online ISSN : 2435-8711
Print ISSN : 2189-2806
夏目漱石の持病 ―糖質制限食による治療の考察―
中嶋 一雄
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2022 年 9 巻 1 号 p. 34-

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抄録
夏目漱石は,神経衰弱・胃潰瘍・糖尿病の持病を有し,糖尿病の治療として当時の最新治療 の厳重食(現在の糖質制限食)が行われた.炭水化物を減らし蛋白質・脂肪を増やす食事内容で,こ の治療により糖尿病と神経衰弱の症状は改善し,最終作の「明暗」に治療光景が描写された.しかる に胃潰瘍は改善せず,結局腹腔内出血で死亡した. 3 種の持病の関連と厳重食の治療効果を,現代の医学で考察してみた.①2 型糖尿病患者はピロリ 菌陽性率が高い.②40 代の糖尿病患者にうつ病発症率が高く,一方再発性うつ病患者は胃潰瘍発生 率が高い.③ケトン体形成食が統合失調症等の精神症状の改善を生ずると報告されている.三種の疾 病は相互に関連していたと考えられた.当時の厳重食は神経衰弱・糖尿病に有効だったが,胃潰瘍に は無効であった.ビタミンA や食物繊維の多い食材を多く摂取すれば,胃潰瘍にも効果があった可 能性がある.
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© 2022 認知症治療研究会
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