2011 年 31 巻 3 号 p. 309-317
iPS細胞は倫理的問題や免疫拒絶がないことから,将来の再生医療のツールとして大きな期待が寄せられている.従来のiPS細胞樹立法の問題点として皮膚生検の施行,長い樹立期間,挿入遺伝子のゲノムへの残存による腫瘍形成などが指摘されていたが,われわれは血液中Tリンパ球とセンダイウイルスを用いて,1ヵ月以内にゲノムを損傷しない新規樹立法を開発した.また,マウス胎児胚の心臓予定領域に発現する液性因子をスクリーニングし,心筋細胞分化過程に重要な因子として,未分化幹細胞から前方中胚葉への誘導するnoggin,早期心筋の細胞分裂を誘導する因子G-CSFなどを発見した.これらを利用し,ヒトのES/iPS細胞から効率的に心筋細胞を誘導した.さらに,ミトコンドリアに特異的に取り込ませる色素TMRMを利用して心筋細胞と混在する未分化幹・非心筋細胞とを分離する方法,細胞シートを作成する方法,再生心筋細胞を壊死させずに効率的に移植する方法を開発した.また,ヒトiPS細胞由来心筋を用いて,遺伝性心筋疾患の病態解明を行っている.iPS細胞技術は循環器領域の発展に重要なツールであり,今後の発展が期待される.