心電図
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31 巻, 3 号
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Editorial
原著
  • ―J-RHYTHM Registryからの検討―
    小谷 英太郎, 奥村 謙, 井上 博, 山下 武志, 新 博次, 折笠 秀樹
    2011 年31 巻3 号 p. 225-233
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/10/14
    ジャーナル フリー
    心房細動患者の血栓塞栓症予防におけるワルファリンの効果判定には,プロトロンビン時間(PT)の国際標準比(INR)が用いられる.PT-INRはPT比(=患者血漿PT/正常血漿PT)に国際感度指数(ISI)を乗じて算出されるため,使用する試薬のISI値により変動する.そのためISI値が1.0に近い試薬が推奨されているが,これまでに全国規模での調査はなされていない.そこでJ-RHYTHM Registry登録施設を対象に,アンケートにより各施設で使用しているPT測定機器・試薬とそのISI値を調査し,INRとワルファリン投与量に与える影響を検討した.
    158施設中152施設(96.2%)から回答が得られ,平均ISI値は1.20±0.28(0.82~1.82)であった.全国10地区比較で有意差を認め(p=0.038),地区平均値最小の南関東地区(1.09)と最大の北越地区(1.47)の間には0.38の差があった.試薬はISI値が1.0に近いトロンボレルSの使用率が35%と最も高かったが,1.5以上の試薬(トロンボチェックPT,トロンボプラスチンCプラス)も23%あり,特に平均ISI値が高い2地区(北越,四国)ではこの2試薬が50%以上を占め,ワルファリン投与量が有意に少量であった.
    本調査により,ISI値には地区差が存在し,ISI値1.5以上の試薬の使用率が高い地区では平均ワルファリン投与量が少ない現状が明らかになった.
  • 渡辺 俊夫, 渡邉 哲, 鈴木 朋, 阿部 宏美, 深瀬 さおり, 和田 由美, 佐藤 智明, 森兼 啓太, 久保田 功
    2011 年31 巻3 号 p. 234-241
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/10/14
    ジャーナル フリー
    Brugada症候群の心電図は,coved型とsaddleback型のST上昇に分類される.リスク層別化のためにST上昇型の日内・日差変動の評価が重要である.今回,ホルター心電図からBrugada型心電図の自動検出が可能な解析装置を利用し,その有用性を検討した.対象は,ホルター心電図による心室遅延電位計測目的で当検査部に依頼があった連続39例〔Brugada症候群5例(男5例,47.6±10.9歳),その他34例(男19例,女15例,57.6±16.3歳)〕で,全例の3ch(X, Y, Z)双極誘導心電図を記録した.その結果,Brugada型心電図の検出にはZ誘導が優れていることが明らかになった.Brugada症候群ではcoved型およびsaddleback型ST上昇が検出されたものが3例,saddleback型ST上昇のみ検出されたものが1例,両者とも検出されなかったものが1例であった.その他,Brugada症候群以外で1例にsaddleback型ST上昇を認めた.ホルター心電図によるBrugada型ST上昇の自動検出は,日内変動を観察するのに有用であると考えられた.
症例
  • 澤崎 浩平, 齋藤 誠, 武藤 真広
    2011 年31 巻3 号 p. 242-248
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/10/14
    ジャーナル フリー
    症例は70歳女性.頻回の動悸発作にて救急外来受診.頻拍時の心電図は,II,III,aVFで陰性の逆行性P波を認めるLong RP’頻拍であった.今回アブレーション目的に入院.電極カテーテル挿入時のカテ刺激にて容易に頻拍が誘発され,narrow QRS頻拍,1 : 1 完全右脚ブロック(CRBBB : complete right bundle branch block)頻拍,2 : 1 narrow QRS頻拍を伴っていた.すべての頻拍中の心房波の最早期興奮部位はCS ostiumであった.2 : 1 narrow QRS頻拍では,His束上ブロックを認め,下位共通路の存在が示唆された.心室頻回刺激にて,jump upを認め,逆行性心房波の最早期興奮部位がHis束からCS ostiumに移行すると同時に,頻拍が誘発された.以上の所見より,非通常型房室結節リエントリー性頻拍と診断し,3回目の通電にて頻拍は停止した.通電後すべての頻拍が誘発されなくなったため,すべて同一の回路による頻拍と推察された.房室結節リエントリー性頻拍で1:1完全右脚ブロックと2 : 1房室ブロックを同時に認めた原因については,緊張による交感神経の興奮で頻拍が非常に速くなり,右脚および下位共通路の有効不応期に相当したためと考えられた.
  • 甲谷 友幸, 三橋 武司, 渡部 智紀, 中神 理恵子, 籏 義仁, 島田 和幸, 苅尾 七臣
    2011 年31 巻3 号 p. 249-255
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/10/14
    ジャーナル フリー
    症例は55歳,男性.繰り返す上室頻拍を認めたため,アブレーションを行った.プログラム刺激で,順行性伝導は2回のjump upを認めたことにより,三重伝導路と考えられた.心室刺激時の最早期心房興奮は冠静脈洞入口部からさらに遠位側で起こっており,冠静脈造影を施行したところ,最早期心房興奮部位は冠静脈内であることを確認した.イソプロテレノール負荷下の心房期外刺激では上室頻拍は誘発できなかったが,jump upの後に心室二重応答を伴った房室結節2エコーが出現した.房室結節エコー時と心室刺激時の最早期心房興奮は一致していた.通常のKoch三角下方の解剖学的遅伝導路を通電したが,jump upのみならず逆行性伝導も残存していた.CARTOシステムで心室刺激時の心房興奮をmappingしたところ,最早期心房興奮部位はやはり冠静脈内であることを確認した.CARTOでの逆行性最早期心房興奮を指標に,温度コントロール45℃,出力制限25Wで冠静脈内の天井を通電したところ,逆行性伝導は消失した.アブレーション後に冠静脈造影を施行したが,狭窄や穿孔などの合併症はなかった.
心電学マイルストーン
心電図講義
特集 座談会 心房細動を原因とする脳卒中予防の新たな時代が始まる
  • 是恒 之宏
    2011 年31 巻3 号 p. 281-286
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/10/14
    ジャーナル フリー
    これまで60年以上にわたり唯一使用可能であった抗凝固薬のワルファリンは,心房細動に合併し重篤な転帰をとる心原性脳塞栓症予防に欠かせない薬剤である.しかし,患者ごとにその至適用量が異なること,食物や多くの薬剤がその効果に影響を与えることから,患者にとっても医師にとっても使用しにくい薬剤であり,必要な患者に十分使用されていない現状が報告されている.一方,ワルファリンに代わる新しい抗凝固薬として,直接トロンビン阻害薬とXa因子阻害薬が開発されている.ダビガトランは発売,ほかのいくつかは現在臨床試験中で,一部は治験が終了し承認申請準備段階にある.いずれの薬剤も,ワルファリンとは異なりビタミンK非依存であるため,食物の影響を受けにくく,また他剤の影響もワルファリンほど多くない.したがって,患者ごとにその投与量を調節することは原則不要であり,ワルファリンに比し使いやすい薬剤といえる.今後,心房細動に対する抗凝固療法はどのように変わっていくのだろう.恐らく,循環器専門医以外の医師も,より積極的に抗凝固療法を行う時代が近づいている.
  • ―基礎の立場から―
    小嶋 哲人
    2011 年31 巻3 号 p. 287-291
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/10/14
    ジャーナル フリー
    心房細動患者における心原性脳塞栓症の予防薬として,ワルファリンが有用であるものの,出血性の副作用が大きな問題となっていた.最近,経口トロンビン阻害薬(ダビガトラン)が開発され,その比較検討試験(RE-LY)でワルファリンに比べダビガトランでは頭蓋内出血が少なかったことが報告された.その要因は,両薬剤の凝固カスケードでの作用点ならびに薬理作用の違いと考えられる.頭蓋内の微小な血管損傷は,通常,脳組織に豊富に存在する組織因子による第VII因子活性化にはじまる外因系凝固カスケードが始動し,素早く止血され無症候性に治癒する.しかし,ワルファリンはこの止血反応始動に必須な第VII因子やプロトロンビンの不可逆的低下をきたし,十分なトロンビン生成ができず止血困難となる確率が高まる.一方,ダビガトランは可逆的な特異的トロンビン阻害薬で,第VII因子やプロトロンビン濃度にほとんど影響しない.そのため,頭蓋内血管損傷時には組織因子による外因系凝固カスケードが始動し,ダビガトランの抗トロンビン活性を凌駕する大量のトロンビンを生成させる.これが,ワルファリンに比べ理論的に頭蓋内出血が少ない要因と予想される.
  • 奥村 謙, 目時 典文, 萩井 譲士
    2011 年31 巻3 号 p. 292-296
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/10/14
    ジャーナル フリー
    脳梗塞はラクナ梗塞(LI),アテローム血栓性脳梗塞(ATCI),心原性脳梗塞(塞栓)(CE)の3つに大別される.久山町の疫学データでは,LI患者の生命予後は時代とともに改善しているが,ATCIとCE患者の予後は不良のままで,特に1988年~2000年のCE患者の1年生存率は約50%と極めて不良であった.2005年10月~2008年1月に弘前脳卒中・リハビリテーションセンターに搬送されたLI(215例),ATCI(308例),CE(245例)患者の退院時の機能予後をmodified Rankin scaleで比較すると,0点,1点の機能良好例はLIが63%,ATCIが46%,CEが31%であった.一方,4点,5点の機能不良例および6点の死亡例はLIが18%,ATCIが37%,CEが52%で,CEがほかに比して明らかに不良であった.CE症例の75%で持続性(永続性)または発作性心房細動(AF)の合併が認められたが,CE発症後の機能予後に発作性AFと持続性AF間で差は認められなかった.血栓溶解療法は確かに脳梗塞の有用な治療法であるが,その適応となる例はCEの11%にすぎなかった.したがってAF例でCEのリスクを有する患者に対しては,CE発症予防のための方策が極めて重要と考えられた.
  • 児玉 逸雄, 新 博次, 是恒 之宏, 小嶋 哲人, 奥村 謙
    2011 年31 巻3 号 p. 297-306
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/10/14
    ジャーナル フリー
心電学フロンティア2010(第45回理論心電図研究会) iPS細胞の電気生理学:心電学への応用とその将来展望
  • 福田 恵一
    2011 年31 巻3 号 p. 309-317
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/10/14
    ジャーナル フリー
    iPS細胞は倫理的問題や免疫拒絶がないことから,将来の再生医療のツールとして大きな期待が寄せられている.従来のiPS細胞樹立法の問題点として皮膚生検の施行,長い樹立期間,挿入遺伝子のゲノムへの残存による腫瘍形成などが指摘されていたが,われわれは血液中Tリンパ球とセンダイウイルスを用いて,1ヵ月以内にゲノムを損傷しない新規樹立法を開発した.また,マウス胎児胚の心臓予定領域に発現する液性因子をスクリーニングし,心筋細胞分化過程に重要な因子として,未分化幹細胞から前方中胚葉への誘導するnoggin,早期心筋の細胞分裂を誘導する因子G-CSFなどを発見した.これらを利用し,ヒトのES/iPS細胞から効率的に心筋細胞を誘導した.さらに,ミトコンドリアに特異的に取り込ませる色素TMRMを利用して心筋細胞と混在する未分化幹・非心筋細胞とを分離する方法,細胞シートを作成する方法,再生心筋細胞を壊死させずに効率的に移植する方法を開発した.また,ヒトiPS細胞由来心筋を用いて,遺伝性心筋疾患の病態解明を行っている.iPS細胞技術は循環器領域の発展に重要なツールであり,今後の発展が期待される.
  • 安田 賢二, 金子 智行, 野村 典正
    2011 年31 巻3 号 p. 318-324
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/10/14
    ジャーナル フリー
    現在,薬物の心毒性を検証するための主要な計測手法は,常に偽陰性(false negative)の危険性を内在している.ヒト幹細胞からヒト心筋細胞の再生が可能になったため,再生された心筋細胞をチップ上に1細胞単位で構成的に配置して,ヒト臓器・組織の応答により近いin vitro細胞ネットワークモデルを構築することが可能になった.そのモデルを使用し,(1)細胞のK+イオンチャネルの応答のゆらぎ解析による安定性変化の定量化(時間的観点),(2)心筋細胞ネットワークにおける伝導状態のゆらぎ解析による伝導異常の定量化(空間的観点)のふたつの観点から,心筋細胞間の興奮伝導の異常発生を定量的に観測できる心毒性検査法を検討した.その結果, in vitro系であっても偽陰性の薬剤を「ゆらぎ」から効果的に識別できることを確認した.細胞間の興奮収縮の伝導異常である致死性不整脈の発生を計測するには,従来の細胞計測に加えて,細胞間の相互作用を理解するための細胞ネットワークの階層という,新しいin vitroプラットホームが重要であると考えられる.
  • ―パッチクランプ実験―
    古川 哲史, 黒川 洵子, 大方 信一郎, 遠山 周吾, 湯浅 慎介, 村田 光繁, 福田 恵一
    2011 年31 巻3 号 p. 325-328
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/10/14
    ジャーナル フリー
    心臓電気生理・不整脈の研究は,従来ヒト以外の生物種の心筋細胞を用いるか,ヒトイオンチャネル遺伝子を心筋以外の細胞株に異所性に発現させて行われてきたが,これらの方法はヒト心筋細胞とは異なる環境下での検討であるということが課題として指摘されていた.ヒトiPS細胞から分化誘導した心筋細胞の樹立により,この問題の克服が期待されている.今回,ヒトiPS細胞から分化誘導した心筋細胞の電気生理学的特性を検討した.ヒト心筋型イオンチャネルmRNAの発現,ヒト心筋型イオン電流記録,自律神経応答,イオンチャネルブロッカーの作用などが確認された.ヒトiPS細胞から分化誘導した心筋様細胞は心筋細胞に近い特性が獲得されているが,結節型,心房筋型,心室筋型が混在すると考えられた.
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