2020 年 40 巻 4 号 p. 235-243
症例は81歳,男性.高度房室ブロックで,洞性P波が房室伝導した際は右脚ブロック型(+30°)のQRS波(以下,心室捕捉A)が現れ,2種類の補充収縮〔右脚ブロック型(以下,補充収縮B),左脚ブロック型(以下,補充収縮C)〕が出現し,様々な融合収縮(以下,融合収縮D)を呈する複雑な不整脈を経験した.補充収縮Bは,II誘導でR波が高く,心室捕捉Aに比べてやや右方に偏位(+60°)していた.補充収縮Bおよび補充収縮CのRR間隔は,それぞれ1.65秒,1.68秒と極めて近似した自動能周期であった.心室捕捉Aに続いて,洞性P波と先行心拍とのRP間隔が0.89秒より長くなる補充収縮Bの場合は,順行性に伝導し,補充中枢を脱分極して周期更新するが,0.88秒以下と短くなる補充収縮Cの場合は,ヒス束下部に回り込み,逆行性に不顕伝導して補充中枢を脱分極するため,次の補充収縮は本来の自動能周期よりも長いRR間隔で出現したと考えられた.以上から,本症例はヒス束内triple pathway機能的縦解離が存在しており,心室捕捉Aは左脚後枝束を伝導し,補充収縮Bは左脚前枝束,補充収縮Cは右脚束に補充中枢が局在すると考えられた.