抄録
臨床的に明らかな心血管系症状のない成人発症型の糖尿病患者における運動負荷時のST下降の頻度とその予後的意義を検討する目的で, 176例の40歳以上の成人発症型の糖尿病患者 (男113例, 女63例, 平均年齢59歳) にトレッドミル負荷試験を行ない, 172例にて6~36ヵ月 (平均23ヵ月) 経過観察を行なった.運動負荷陽性は29例 (16.5%) にみられ, 負荷陰性例に比べて有意に高年齢であったが, 糖尿病罹病歴, 治療内容, 腎症・網膜症・高血圧症の合併頻度には両群間で差はみられなかった.経過観察中, 4例の心筋梗塞と1例の突然死発生をみたが, いずれも負荷陽性例であった.負荷陽性例のうちで, 心事故発生例と非発生例の比較では, 運動時間, 最大ST下降度には差がなく, 負荷後のST下降時間が前者で有意に長かった.糖尿病患者の予後予測の上で, 運動負荷試験は有用であり, 陽性例には慎重な管理が必要と結論された.