抄録
梗塞心における交感神経支配の異常と心室頻拍 (VT) , 細動 (Vf) 発生の関連性を検討した.冠動脈左前下行枝結紮後7日が経過した梗塞犬12頭を用い, 交感神経電気刺激により, 交感神経緊張亢進状態を作成した上で, プログラム電気刺激法によるVT/Vfの誘発を行い, その際の興奮伝播様式を心外膜マッピング法で検討した.交感神経刺激時に以下の点が明らかにされた.1) 12頭中10頭で誘発性が増悪し, 8頭でVfが, 2頭で持続性VTが誘発された.2) 右室からの基本刺激時の左室心外膜面の興奮伝播速度は, 健常部では増大したが (p<0.05) , 梗塞部では不変であった.3) 早期刺激時の心外膜面局所の興奮時間最大値はコントロールより延長した (156±14msecから199±36msec, p<0.01) .4) 11頭中9頭では早期刺激時に, 梗塞部の不均一な興奮時間遅延のため, 新たな局所的機能性ブロックが複数の部位に形成され, これらを中心に微小旋回路が形成された.Vfに先行するVT中, 一心拍ごとの旋回路の移動が観察された.5) 微小興奮旋回路の領域は, 交感神経刺激時に不応期不均一性が増大した領域と一致していた.以上, 残存心外膜心筋に分布する交感神経繊維の不均一な障害により, 交感神経興奮時に不応期および興奮伝播の不均一性が増大し, その結果心外膜側心筋源性の複数の微小興奮旋回路が形成され, Vfへと移行することが示唆された.