抄録
肥大型心筋症患者 (HCM) にみられる運動中のST-T変化の機序を解明する目的で安静時に陰性T波を有する本症患者51例, 労作性狭心症 (EA) 12例および健常者13例に症候限界性の多段階運動負荷試験を行ない, 空間速度心電図のQRS時間, QRSベクトル描出速度 (ρ1, ρ2波高) の変化を検討した.健常群とHCMのうち運動時ST不変であったST不変群では運動時にQRS時間の有意な短縮, ρ1, ρ2波高の有意な増加を認め心室内興奮伝導過程の促進を反映したものと考えられた.また, ST不変群の93%では運動中に陰性T波の減少または陽転化がみられ心筋肥厚部の再分極過程の遅れが軽度になると考えられた.一方, EA群とHCMで運動時ST下降したST下降群では, QRS時間の有意な短縮, ρ1, ρ2波高の有意な増加は認められず, ST下降群の73%では陰性T波がさらに深くなり, これは一過性心筋虚血に伴う興奮伝導過程の障害により再分極過程の差が拡大したものと考えられた.