抄録
目的: アセチルコリン (ACh) の心房細動誘発作用は実験的にも臨床的にも確立されているが, その機序としては心房筋不応期の短縮作用があげられているのみで, 伝導に対する作用についてはこれまで言及されていない.我々はイヌ右心房を用いた実験から, AChの心房細動誘発にはその細分化心房電気活動 (FAA) 形成作用が重要な役割を果たしており, またこのFAA形成には不応期の不均一な短縮と同時に, それに基づく伝導遅延が強くかかわっていることを知った, 本研究は心房筋興奮伝導に及ぼすAChの影響を明らかにすることを目的とした, 方法: 直径16mmの円形多極電極を麻酔開胸犬右房自由壁に縫着, 中心電極に10発の基本刺激 (S1, 周期300msec) に続き, 実効不応期に至るまでS1-S2間隔を短縮させつつ単発早期刺激 (S2) を加え, S1, S2による心房興奮 (A1, A2) をマツピングシステムを用いて記録, A1, A2の伝導時間, 伝導速度を測定.これらの検討をACh (0, 1μM, 1μM) , あるいはACh+ジスチグミン (DSt) の局所投与前後で行い比較した.結果: A1の伝導速度 (A1-CV) はACh投与前後で67.3±24.5 vs 65.2±25.6cm/secで不変だった.しかしA2 (earliest propagated response, EPR) -CVは31.7±15.2 vs 11.0±5.1cm/sec (p<0.001) で, Achによる有意の伝導抑制作用を認めた.結論: S1-反応の伝導速度はAChによって影響を受けないが, S2-反応 (EPR) はAChにより著明な伝導抑制を受ける.これはFAA形成と悪循環をなしつつ細動誘発に寄与する.