抄録
左室肥大は, いずれの要因でもたらされたかにかかわらず心不全発症の重要な因子である.また, 左室肥大は心不全だけでなく心室性不整脈, 心筋梗塞による死亡, 心臓突然死, 脳血管障害の発症頻度を増加させる.肥大心では相対的に毛細血管床の密度が少なく, 虚血に適応して起こる細動脈レベルでの血管拡張反応が肥大心筋により物理的に妨げられるため, 長期的には心内膜下の虚血, 細胞障害, 線維化を弓1き起こし, 心室拡張障害から心室リモデリング・収縮障害をきたしうる.しかし, 虚血以外のさまざまな神経・体液性因子の関与も指摘されている.現時点で左室肥大に最も強く関与しているとされる分子はアンジオテンシンIIである.アンジオテンシンIIが主にAT1受容体を介して肥大シグナルを亢進させること, また最近ではAT, 受容体自体が他の刺激により活性化されると肥大が起こることも報告されている.臨床的にも, 心肥大を有する高血圧患者に対してACE阻害薬やAT1受容体拮抗薬を投与すると心肥大進行が抑えられること, あるいは長期予後改善に有用であったと報告されている.