抄録
椅子立ち上がり(Sit-to-stand: STS)動作時の床反力を利用した高齢者の下肢筋機能テストを作成するために,適切な反復動作回数を検討する必要がある.高齢者に対するSTS動作の反復実施は,身体的な負担が大きく,関節障害を誘発する可能性がある.高齢者を対象とした場合,前述の観点から,より少ない反復回数の方が,適切と判断される.本研究の目的は,1回および反復STS動作時における床反力相互の関係,および両STSテストと体力テストとの関係を検討することであった.下肢に障害のない健康な高齢女性19名が,前述の両STSテストおよび文部科学省の体力テストに参加した.両STSテストは,1回あるいは5回のSTS動作を可能な限り素早く行うテストであった.両STSテスト時における床反力の時系列データから,STS動作の踏み込みの強さおよび素早さを捉える5変数を算出した.なお,反復STSテストでは,1回ごとのSTS動作と,5回の総和を変数として解析に用いた.1回STSテストと反復STSテスト(総和)の関係は,床反力ピーク値,床反力力積および床反力上昇最大速度において有意で中程度であった(r= 0.76-0.78).1回および反復STSテストパフォーマンスと反復STSテストにおける各反復回数ごとの評価変数との関係は,動作成就時間と単位時間あたりの力積の関係を除く3変数においてはほぼ全てにおいて有意で中程度以上であった.両STSテストとも,床反力ピーク値および床反力上昇最大速度と体力テストの上体起こしおよび10m障害物歩行に有意で中程度の関係が認められた(| r | = 0.47-0.72).結論として,1回と反復STSテストの関係は比較的高く,体力テストとの関係も同様な傾向を示す.1回のSTSテストであっても,反復STSテストと同様な評価が可能と判断される.高齢者の下肢筋機能評価は,被験者の身体的負担を考慮し,1回STSテストが望ましいと考えられる.