抄録
岩手医科大学附属病院(以下,当院)では院内感染予防のための新たな支援策として,実施すべき予防策を指標色制定(color coding)により視覚的に周知させることを意図した,当院独自の「感染経路別ゾーニング・システム」を2005年4月から導入した.
本論文では,システム導入の経緯を示すとともに,新たな支援策が各種の感染制御指標に及ぼす影響について,1) 擦式手指消毒薬および2) 医療用手袋の使用量,3) MRSAの発生届出件数,4) 入院患者10,000人当たりのMRSA分離報告件数,5) 院内のアウトブレイク疑い事例に対するICTの介入件数の5指標を,システム導入前(2004年度)と導入期(2005年度),導入後(2006年度)の各年度で比較した.
調査の結果,導入前,導入期,導入後でそれぞれ,1) 擦式手指消毒薬の月平均総使用量は242L, 250L, 235Lと差が認められず,2) 医療用手袋の月平均使用量は261,700枚,338,000枚,410,100枚で導入期・導入後に増加,3) MRSA月平均発生届出件数は23.6±4.3, 20.3±5.5, 19.8±4.6と導入後有意に減少,4) MRSA月平均分離報告件数は21.1±5.1, 14.5±3.9, 13.6±3.1で導入期・導入後に有意に減少,5) 年間ICTの介入件数は7件,5件,3件と減少した.以上から「感染経路別ゾーニング・システム」の導入は院内感染対策の充実,特に大多数を占める接触感染の予防支援策として有効と考えられた.