日本環境感染学会誌
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原著・短報
NICU におけるカテーテル挿入時のマキシマムバリアプリコーションの必要性
戸石 悟司加部 一彦
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2009 年 24 巻 3 号 p. 162-166

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抄録

  中心静脈カテーテル関連血流感染症(CR-BSI)は,院内感染症の中でも重要な感染症であり,その対策としてマキシマムバリアプリコーション(MBP)の徹底がCDCより推奨されている.一方,本邦の新生児集中治療室(NICU)においてはこのような対策を行っていない施設が多いにも関わらず,米国の新生児医療施設に比べ院内感染発生率が低い事が知られている.今回,MBPを行っていない当院NICU過去5年間におけるCR-BSIの発生率を調査することで,我が国におけるカテーテル挿入時のマキシマムバリアプリコーションの必要性について考察した.
  2002年から06年までの5年間の経皮的中心静脈カテーテル(PICC)挿入は年間平均55症例,70回.同期間における,のべカテーテル挿入日数は3652日/5年であった.CR-BSIの定義は,国立大学医学部附属病院感染対策協議会によるフローチャートを改変し解析を行った.全米病院感染サーベイランス(NNIS)のデータ1000 g未満の児のCR-BSIが1000 catheter-daysあたり10.6と高値であるのに対し,当院のデータは疑い例を含めても0.81と非常に少なかった.PICC挿入時には,原則として滅菌手袋の着用は行われず,アルコールによる手指消毒のみの操作で,臨床的にCR-BSIが問題となる事はなかった.
  出生直後の新生児には皮膚常在菌叢が定着しておらず,無菌状態に等しい事や新生児は免疫学的にも未成熟である事を念頭に,NICUにおいては感染予防対策としてきめ細やかな管理を行っていることに加えて,児に対するほとんどの処置が閉鎖環境である保育器(クベース)内を中心に行われることがこの結果に関係していると考えられた.我が国よりも院内感染症発生率の高い欧米の基準に基づく感染対策を導入するに際しては,我が国の現状を十分に考察した上で,その必要性に関してはさらにエビデンスの蓄積が必要であると思われた.

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© 2009 一般社団法人 日本環境感染学会
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