2018 年 33 巻 5 号 p. 230-235
2016年3月より当院の新生児特定集中治療室(NICU)においてMethicillin-resistant Staphylococcus aureus(MRSA)保菌児が急増したため,MRSAの水平伝播を疑い感染対策を行った.標準予防策の徹底,保菌児のコホーティングを行ったが保菌者は減少せず,スタッフのMRSA保菌調査および除菌,MRSA保菌児の除菌を行ったことでMRSA保菌者は制御された.対策期間中のMRSA感染症例はなかった.伝播経路の特定のためPCR-based ORF Typing(POT法)を利用した結果,8種類の異なる遺伝子型をもつMRSAが持ち込まれ,そのうち4種類がNICU内で伝搬していたことが判明した.POT法で判明した伝播経路と2次元キャリアマップ(2DCM-web)による伝播経路の推定が1例を除きその他全てが一致したことから,2DCM-webの有用性が示唆された.本事例では保菌者の増加に素早く対応することで感染者を出すことなく新規MRSA保菌患者の検出を終息させることができた.MRSAは外部から常に持ち込まれている可能性があることを念頭に,日頃からチームとして感染対策を行なっていくことが重要である.