2021 年 36 巻 3 号 p. 161-165
今回当院で経験した疥癬集団発生は,徹底的な追跡調査をもってしても感染源が特定できず,濃厚接触が確認できない患者間で,約1年2ヶ月にわたり通常疥癬患者が散発的に発生した事例である.皮膚状態から疥癬が否定できないすべての患者に対し予防投与を試みたが,予防投与を受けた患者のうち2名が後に疥癬を発症した.そのため,予防投与の対象範囲を拡大して集団予防投与を実施した.集団予防投与は説明と同意のもと,当該病棟のすべての患者と2ヶ月以内に当該病棟から他病棟に転棟した患者計60名を対象とし,イベルメクチンを1週間間隔で計2回投与した.患者との直接的接触が少なく,発症者が確認されていない職員は集団予防投与の対象としなかった.皮膚状態から疥癬が否定できないすべての患者に限定した予防投与を実施することについては検討の余地が残る.