本研究の目的は,歯科診療所に勤務する歯科医師と歯科衛生士の職業感染の行動に影響を与える因子を明らかにすることである.2020年9月から11月に兵庫県と山形県の歯科診療所3,443施設に対し質問紙を配布し,855部(回収率24.8%)の回答があった.その結果,職業感染の行動に最も効果が大きかったのはその人の持つ感染対策の知識であった.また,知識の保有と知識獲得機会の関連では,過去2年間の研修参加回数に効果がみられた.さらに,年齢が高くなると知識が低くなることが示唆された.一方,職業曝露の経験は,職業感染の行動には関連がみられなかった.勤務する施設の環境因子の影響については,施設設備としてのウォッシャー・ディスインフェクター(以下W/D)の設置は,知識を通して行動への効果がみられた.しかし,施設規模や外的要因などその他の環境因子の影響は見られなかった.今回の調査によって,職業感染の行動に影響を及ぼす環境因子には知識の保有が最も効果が大きく,知識獲得機会は基礎教育だけでなく,直近の研修会への参加や必要な情報を多方面から積極的に入手することによって,現在の職業感染の行動に反映できることが分かった.