日本環境感染学会誌
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37 巻, 6 号
選択された号の論文の7件中1~7を表示しています
総説
  • 中村 茂樹
    2022 年 37 巻 6 号 p. 217-226
    発行日: 2022/11/25
    公開日: 2023/05/25
    ジャーナル フリー

    メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(methicillin-resistant Staphylococcus aureus;MRSA)は1960年代以降全世界に拡散し,その後約60年が経過した現在でも医療関連感染および市中感染の原因菌として最も重要な病原体の一つである.多面的介入の実践によって2000年以降MRSAが及ぼす疾病負荷は,感染対策や流行クローンの地域性によって多少異なるものの,多剤耐性グラム陰性菌と比較し年々減少傾向を示している.これは各医療機関における感染対策の徹底や抗菌薬の適正使用が功を奏したものと推察される.一方,わが国の黄色ブドウ球菌に占めるMRSAの割合は50%前後で下げ止まり,市中感染型MRSA(Community-Acquired MRSA;CA-MRSA)の院内伝播の増加や,院内感染型MRSA(Hospital-Acquired MRSA;HA-MRSA)の市中保菌者が増加するなど,各医療機関単独で感染対策を完結することが困難になりつつあることがその理由として考えられる.MRSA感染症は無症候性保菌から皮膚軟部組織感染症,致死的な侵襲性感染症に至るまでその病態は多彩である.MRSA感染対策の基本は感染源の特定と標準予防策や接触予防策による感染経路の遮断,抗菌薬(抗MRSA薬含む)の適正使用,そしてハイリスク患者への適切な支援・介入であるが,今後は地域全体でその動向を把握し感染対策を講じていくことが重要である.

  • 山田 恭聖
    2022 年 37 巻 6 号 p. 227-234
    発行日: 2022/11/25
    公開日: 2023/05/25
    ジャーナル フリー

    新型コロナウイルスに罹患した妊婦においては周産期予後が懸念される.流行開始から2年半が経過する中で,妊娠合併症や新生児予後を含む多くの報告がなされている.2021年にはいくつかの国レベルの調査(イギリス,スウェーデン,スペイン)が報告された.これらによれば,陽性妊婦から出生した新生児のPCR陽性率は1.6-5%と想定されている.また現時点でSARS-CoV-2の胎盤を通じての胎児への移行は報告されていない.最近新型コロナウイルス感染妊婦やその新生児の健康に対する影響を評価したシステマティックレビューが複数報告されている.これらによれば,新型コロナウイルス感染妊婦は非感染妊婦に比較し妊娠高血圧腎症(オッズ比1.3-1.6倍),早産(オッズ比1.6-1.9倍)が増加すると報告されている.

    小児多系統炎症症候群(MIS-C)は新型コロナウイルス感染後に発症する免疫誘導状況である.新生児多系統炎症症候群(MIS-N)は母体SARS-CoV-2に関連し,MIS-Cに矛盾しない症状を呈する.抗体の経胎盤移行が原因と推定されているが不明な点も多い.新型コロナウイルス感染症既往歴のある妊婦から出生した新生児で,多系統の炎症による異常徴候を説明する鑑別診断としてMIS-Nを検討する必要があると思われる.

    最新の知見によれば出生後の新生児が入院中に感染を獲得するリスクは低いと推察されている.さらに,母乳中に明らかに感染性のあるウイルスは検出されていない.最近のこれらデータの蓄積により世界的には母児分離を避けることが推奨されている.しかし国内の多くの施設では新生児はいまだに感染母体と分離されている.これらの厳格な感染管理によって引き起こされる負の影響が懸念される.

proceedings
  • 岩永 直樹, 迎 寛
    2022 年 37 巻 6 号 p. 235-238
    発行日: 2022/11/25
    公開日: 2023/05/25
    ジャーナル フリー

    COVID-19の世界的流行により,呼吸器感染症診療を取り巻く環境は一変している.COVID-19に関する新たな知見が日々世界中で構築されており,社会の関心は今まで経験したことがないほどに高まってきている.一般市民にも手指衛生の励行,ソーシャルディスタンスが広く浸透した結果,インフルエンザを始めとしたCOVID-19以外の感染症患者数は急激に減少した.

    COVID-19に関しては,基礎疾患を持つ患者や高齢者を中心に重症例が発生し医療を逼迫してきたが,ワクチン接種例における感染抑制効果がみられている.一方,変異株は感染性のリスクも高くなり,第5波ではワクチン未接種の若年者を中心に感染が拡大した.今後もウイルスは変異し続け,ワクチン非接種者も一定数存在することから,SARS-CoV-2感染症は今後も完全に根絶されることはないであろう.従って,今後の呼吸器診療においては,多数ある呼吸器感染症の鑑別疾患の一つとして,常にCOVID-19を考えていかなければならない.特に間質性肺炎の患者の初診においては,COVID-19肺炎の可能性に注意する必要がある.一方で,このコロナ禍においても,超高齢社会を背景に誤嚥性肺炎の患者数に大きな減少傾向はみられず,我が国の呼吸器診療における大きな課題のひとつである.

原著
  • 岡森 景子, 柴谷 涼子, 洪 愛子, 横内 光子
    2022 年 37 巻 6 号 p. 239-247
    発行日: 2022/11/25
    公開日: 2023/05/25
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は,歯科診療所に勤務する歯科医師と歯科衛生士の職業感染の行動に影響を与える因子を明らかにすることである.2020年9月から11月に兵庫県と山形県の歯科診療所3,443施設に対し質問紙を配布し,855部(回収率24.8%)の回答があった.その結果,職業感染の行動に最も効果が大きかったのはその人の持つ感染対策の知識であった.また,知識の保有と知識獲得機会の関連では,過去2年間の研修参加回数に効果がみられた.さらに,年齢が高くなると知識が低くなることが示唆された.一方,職業曝露の経験は,職業感染の行動には関連がみられなかった.勤務する施設の環境因子の影響については,施設設備としてのウォッシャー・ディスインフェクター(以下W/D)の設置は,知識を通して行動への効果がみられた.しかし,施設規模や外的要因などその他の環境因子の影響は見られなかった.今回の調査によって,職業感染の行動に影響を及ぼす環境因子には知識の保有が最も効果が大きく,知識獲得機会は基礎教育だけでなく,直近の研修会への参加や必要な情報を多方面から積極的に入手することによって,現在の職業感染の行動に反映できることが分かった.

  • 丸山 浩平, 足立 遼子, 関谷 潔史
    2022 年 37 巻 6 号 p. 248-255
    発行日: 2022/11/25
    公開日: 2023/05/25
    ジャーナル フリー

    COVID-19へのBNT162b2 mRNA COVID-19ワクチン接種による感染および発症予防効果が示されているが,これらの効果は経時的な低下が報告されている.一方で,接種後の抗体価は感染予防効果との相関が示唆されているが,接種後から長期間経過した時点での抗体価に影響を与える要因の報告は少ない.我々はBNT162b2 mRNA COVID-19ワクチン2回目接種後の職員に抗体検査を実施し,6か月以上経過している場合の,抗体価に影響を与える要因について後ろ向き観察研究を行った.このうち過去にCOVID-19罹患が判明している職員,問診票による情報収集ができなかった職員は除外した.本研究において,2回目接種から6か月以上経過している場合,抗体価が大幅に低下していることが判明した.さらに,6か月以上経過している医療従事者において,単変量解析では年齢,性別,降圧剤の使用が抗体価に影響を与える要因とされ,多変量ロジスティック回帰分析では年齢のみが抗体価に影響を与える要因とされた.年齢については本邦だけではなく,海外からの報告でも抗体価に影響を与える要因とされている.本研究の結果より,ワクチン2回目接種から6か月以上経過している場合,高齢者においては時間経過によるワクチン抗体価の低下が若年層に比べて,より顕著であり,このことは高齢者において,ワクチンによる感染予防効果が時間的な影響をより受けやすいことを示唆していた.

報告
  • 小椋 正道, 櫻井 大輔, 岡部 春香, 荻野 夏子, 吉川 隆博, 沓澤 智子, 浅井 さとみ, 梅澤 和夫
    2022 年 37 巻 6 号 p. 256-264
    発行日: 2022/11/25
    公開日: 2023/05/25
    ジャーナル フリー

    新型コロナウイルス感染症(COVID-19)流行期に首都圏(東京・神奈川・千葉・埼玉)の精神科病院および介護福祉施設(介護老人保健施設[老健]と特別養護老人ホーム[特養])を対象とし,感染対策組織の設置状況や実施した措置,各種介助時や医療処置時に装着した個人防護具(personal protective equipment:PPE)のアンケート調査を行った.その結果,感染対策委員会は設置している(設置率86.7%)が,感染対策の専門家は不在であることがわかった(配置率9.1%).近隣の医療機関との情報共有についての実施率は精神科病院が50.0%(24/48),老健が59.5%(22/37),特養が42.4%(14/33)であり,約半数の病院・施設で行われていなかった.

    PPEの装着状況では,マスクの装着率は全施設の全場面で100%であったが,その他のPPEでは標準予防策と乖離した装着状況が散見され,特にエアロゾル発生を伴う医療処置や介護施設の入浴介助の際に装着しているPPEはCOVID-19対策としては不十分なPPEを選択している病院・施設が多かった.

    これらの状況を鑑みると,自施設の実態に合わせた感染対策マニュアルを作成する際は感染対策の専門家の意見を取り入れることが必要であり,近隣の医療機関との地域連携や外部の感染対策の専門家と連携できるシステムの構築が急務と考えられた.

  • 佐和 章弘, 森兼 啓太, 針原 康, 赤木 真治, 清水 潤三, 藤田 烈
    2022 年 37 巻 6 号 p. 265-278
    発行日: 2022/11/25
    公開日: 2023/05/25
    ジャーナル フリー
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