抄録
疥癬は重要な院内感染症の1つである. しかし, 院内流行防止策が徹底されていないために疥癬が発生した現場では対応に苦慮している. 1998年7月から99年10月にかけて, 神奈川県内の1特別養護老人ホーム (入所利用者50人) で4回の普通疥癬の発生があった. 4回の発生のうち99年9月の集団発生事例は, 特定のショートスティ利用者の施設内持ち込みで発生したと推測される. 本施設の疥癬感染は年齢・入所月数に無関係に起き, 女性の感染 (61.1%) が男性より有意に高く, 主感染者はADL Grade IV以上の独歩不能の女性要介助者, 特に寝たきり女性であった. 寝たきり入所者と同室の独歩可能な自立者たちに感染がないこと, 感染者の居室の塵芥から疥癬ダニと卵が検出されなかったことから, 介助職員の着衣を介した接触伝播で広がったと推定した. さらに疥癬の伝播防止に対応上留意を要した諸点についても考察した.