抄録
最近, 当院でみられたヒト疥癬虫 (Sarcoptes scabiei var. hominis) による院内感染 事例を報告する. 1989年2年10日, 73歳の女性が高熱, 脱水, 昏睡, 全身衰弱のため当院内科病棟に緊急入院した. この患者の皮膚は落屑著明, 乾燥高度で, 皮膚科医の診察を受けたが皮脂欠乏性湿疹と診断された. その後, 全身状態が徐々に改善するとともに本患者は強度の皮膚掻痒感を訴えるようになった. 3月7日皮膚表皮の鏡検でヒト疥癬虫体が検出され, 初めて疥癬と診断された. 診断後は周囲の者への二次感染の予防対策がなされたものの, 同一病棟内入院患者では発端者を含めて7名から疥癬の虫体または虫卵が検出され, これとは別に入院患者4名と同じ病棟の看護婦5名が疥癬ほぼ確実となった. Crotamiton軟膏とγ-BHC (Benzene hexachloride) による治療で, 4月24日にやっとこの院内感染事例の終結をみた. 今回の疥癬の感染経路としては, 二次感染者の病棟内発生状況からみて介助業務に従事した看護婦が媒介役をになったことが考えられ, さらに患者間で共用されていた血圧計のマンシェットからの感染伝播も推定された.
本事例では疥癬の初期の的確な診断の遅れが, このように多数の二次感染者を発生させてしまった. この反省をふまえて, 当院の院内感染対策委員会では疥癬の予防対策マニュアルを作成した.