抄録
1990年に開設した老人ホームにおいて, 2回の疥癬症施設内感染を経験した. 発端者は灰色の鱗屑を特徴とするノルウェー疥癬の新入居老人で, 診断の遅れから入居老人と介護職員に多数の二次感染者を認めた. 6%安息香酸ベンジル加クロタミトン軟膏の塗布, 硫黄剤添加浴, その他の一般的処置で対処したが, 鎮静化に2ヵ月を要した. 疥癬の確定診断はなかなか困難で, ノルウェー疥癬は易感染者に発生することが多く, 老人施設が急増している現在, 見逃せぬ問題となっている. 栃木県下の特別養護・養護・軽費・有料の各老人ホーム, 計58施設にアンケート用紙を送付し, 疥癬症の施設内感染の現況について調査した. 42施設から回答が寄せられ (回収率72%), 25施設で延べ29回の疥癬が経験されていた. ホームの種類別では特別養護老人ホームが19施設と最多の発生で, 年次別では23施設が最近の3年間に集中していた. 施設内感染の発端者が入居者であるのが20施設, このうち新入居時あるいは病院退院後の再入居時の発生が11施設, 発端者がショートステイ利用者であるのが3施設で, すべて入居時の発生であった. ノルウェー疥癬の認められた4施設では平均45.3名 (平均感染率45.3%) の二次感染者が報告された. 老人福祉施設での疥癬症はMRSA感染よりもはるかに実害のある感染性疾患であり, ショートステイも含めて利用者入所時の皮膚所見の観察や, 職員の接触感染に対する教育など, 的を絞った対策が必要である.