抄録
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のまん延という未曾有の危機により、三密の回避、マスクの常用など、いわゆる「新しい生活様式」が若者に広く求められた。また、繰り返される緊急事態宣言により、これまで当然にあった学校生活を過ごせなくなった。このような変化が子ども・若者のメンタルヘルスに与える影響は少なくなく、事実、2020年に自殺した児童生徒は統計のある1980年以降最多の479名であった。他方、2022年度から施行された新学習指導要領に「精神疾患の予防と回復」が加わり、学校を拠点にしたメンタルヘルスの向上への取り組みが始まった。正しい精神疾患の知識を獲得したうえで、次に重要になるのは、子ども・若者が心身の不調時に正しく速やかに援助希求行動が取れる環境整備になる。
このような社会課題は本邦に限られたことではなく、諸外国では学校を拠点にしたメンタルヘルスケアモデルが社会実装し一定の効果を示している。
ここでは、本邦の教育・医療の環境変化や学校保健の特徴を考慮したうえで、諸外国での事例を参考に、筆者らが取り組む学校を拠点に遠隔医療を活用したメンタルヘルスケアサービスを紹介し、子ども・若者を取り巻く環境を諸家の知見を交えながら概観し、子ども・若者がより健やかに成長できる社会について考えていきたい。