予防精神医学
Online ISSN : 2433-4499
早期介入の“時機”を精神科診療所の立場で考える
松本 和紀
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2023 年 8 巻 1 号 p. 38-46

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抄録
精神疾患に対する早期介入として精神症を発症するリスクが高い精神状態(at-risk mental state :ARMS)を同定し、特別な介入を行うパラダイムが注目されてきた。こうしたアプローチは、この領域の研究を進展させ、実践的な支援方法の開発に寄与してきた。一方、特定の精神疾患の早期段階を標的とした特異的アプローチの限界も明らかになっている。初回精神症の人々の多くは、顕在発症前に非特異的な症状や問題に対する治療や支援を求めてアクセスすることが示されている。人が精神症に至るまでの経路やその後の経過には、遺伝、神経発達の偏り、幼少期のトラウマ性の体験、人や社会とのつながりの喪失、非機能的な思い込みなどの心理学的要因などが関係することも明らかになっており、あらゆる精神疾患は相互に関連し合い、多くのリスク因子を共有する。精神科診療所には、軽症~中等症の幅広い精神疾患の人々が訪れるが、その中には上述した複数のリスク因子を有しながら多様な精神症状や問題を呈した若者が多く含まれる。予防精神医学の観点からは、援助希求行動をとって事例化したあらゆる若い人々に対し、早期から重症化や慢性化の予防、リカバリーを目指した治療や支援のアプローチを発展、普及させていくことが重要であり、精神科診療所の立場からは、外来診療につながった最初の数年内に行われる通常診療そのものが早期介入に大切な時機だと考えられる。
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© 2023 日本精神保健・予防学会
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