2023 年 8 巻 1 号 p. 28-37
At-Risk Mental State(ARMS)は、統合失調症を中心とした精神病性障害に対するハイリスク状態を想定して提唱された概念である。提唱されてから30年近くが経つものの、残念ながら、現在この概念が社会に広く普及しているとは言い難い状況にある。一方、世界各国でARMSに関する知見が報告されるなかで様々な課題が指摘され、その概念自体について問い直す動きがある。ARMSの多様性、多次元性に関する議論の中で、精神疾患を顕在発症しているか否かという二者択一に線引きするのではなく、正常なこころの健康状態から精神疾患に至るまでを、グラデーションを持つ次元構造と仮定する「臨床ステージ分類clinical staging」の概念が提唱されている。これに連動するように、その支援に関するサービスモデルのあり方についても変化があり、従来のARMSに特化した医療機関の設置から、地域における早期相談・支援サービスの実装の試みが始まっている。本稿では、近年のこれらの動きについて、事例を交えながら紹介する。