抄録
精神医学領域における早期介入は,1990年代の豪州での精神症(psychosis)を対象とした取り組みに始まり,早期段階におけるリスクや診断などの適切な評価が求められてきた。精神症発症危険状態(ARMS)はあくまでリスクを表すもので,標準的な診断基準のもとでは,ARMS患者の多くが複数の基準を満たし,抑うつ症群や不安症群が多くを占める。これまで「指標的予防」が重視されてきたが,一般人口レベルではARMS該当よりも,気分症群の先行が精神症の発症により深く関与している。一般的(common)な精神病理や症候に焦点を当てた包括的な戦略が有効である可能性が示唆される。また,より広い精神疾患の早期介入を目指し,そのリスク状態を表す「CHARMS」の概念も注目されている。疾患横断的に捉え,重篤な精神疾患(serious mental illness:SMI)に先立つ精神不調状態(common mental disorder)への対応の中で,疾患特異的なリスク状態(at-risk)の評価を行い介入するのが効果的であろう。併せて,「mental well-being」や「mental health promotion」の促進も重要である。好発年齢層の若者へのアプローチとして「Youth Mental Health(YMH)」と広く捉えるのも近年の潮流である。今後は我が国における早期介入の社会実装が求められる。